第10話 もはやエロフ
むにゅん! むにゅん!
たぷんっ! たぷんっ!
次なる目的地を目指し、都市の中を歩くクロノとアリアフィーネ。
アリアフィーネがクロノに腕を絡ませ、密着して歩くものだから、そして身長差があるものだから……クロノの頬や肩に、アリアフィーネの豊かな胸が襲いかかる。
(こ、これは……なかなかに気恥ずかしいな……)
好意を惜しげも無く、行動に表す大胆なアリアフィーネ。
さらに道ゆく人々の視線は明らかにクロノたちに集まっている。
白銀の髪に輝く金の瞳、見るからに上等な装備を身に纏った幼い天使のような容姿のクロノ。
そしてそんなクロノに、セクシーなメイド服を身につけた絶世の美少女エルフ、アリアフィーネが幸せそうな表情で密着していれば……人々の視線が集まってしまうのは必然である。
「ふふ……っ、ご主人様、顔が赤くなってて可愛いです……♡」
「か、からかうな、アリアフィーネ……」
アリアフィーネの言った通り、クロノの頬は少々赤く染まっていた。
前世が聖獣ベヒーモスだったので、人の視線には慣れていた……のだが、こういった類の視線に晒されるのは初めてだった。
それに加え、アリアフィーネはクロノを甘やかすような言葉使いで、先ほどから接し、リードしてくる。
やはり幼い体に心が引っ張られてしまうようで、クロノはなんとなくアリアフィーネに甘えてしまい、彼女に従ってしまうのだ。
聖獣ベヒーモスとして、一人の男として、人の目があるところでは、もっとしっかり立ち振る舞いたい。
けれども、このままアリアフィーネの望むままに、もっと甘えてしまいたい……。
そんな複雑な感情も相まって、クロノは余計に恥ずかしさを覚えてしまう。
「ふふ……っ」
ああ……なんて可愛らしいのでしょう……!
アリアフィーネは心の中で興奮した声を上げると、そのままさらに、腕を強く組み、愛しい少年――クロノに密着するのであった。
◆
「すまない、宿屋街まで送ってほしいのだが」
「はいよ! ……って、うわぁ! お客さんたちすんごい美人さんだね!」
商業区を歩くこと少し、水路に設置されたゴンドラ乗り場へとやってきたクロノたち。
服飾店で宿屋のある区画に行くにはゴンドラに乗っていくといい……とアドバイスされたのだ。
クロノが、オールを持って客待ちをしていた少女に声をかけると、彼女は興奮した声を上げる。
クロノはどう反応していいかわからず、頭をポリポリ。
アリアフィーネは微笑を浮かべて「ありがとうございます」と感じよく応える。
船頭の少女に料金を払い、ゴンドラに乗り込むクロノ。
初めて船というものに乗るので、少々ワクワクした様子だ。
そんなクロノを優しい瞳で見つめながら、アリアフィーネも乗り込む。
二人が乗り込んだところで、船頭の少女が「では発進〜っ!」と元気よく声を出すと、オールを漕ぎ始める。可愛らしい見た目をしているのだが、なかなかに力強いオール捌きだ。
「ほう、水の上から見て美しい都市だな」
「本当ですね……透き通った
綺麗な景色に、クロノが思わず感想を口にすると、アリアフィーネも感嘆の息を漏らす。
水と調和した迷宮都市リューイン……。地上からの風景も良いが、こうしてゴンドラの上から見る景色も素晴らしい。
綺麗な風景、ゆったりと進んでいくゴンドラ、綺麗な風景を眺めるうちに、クロノとアリアフィーネはどちらからともなく手を握り合う……。
「うはぁ! 口から砂糖が出そうだよ……!」
……クロノとアリアフィーネの寄り添いっぷりに、船頭の少女はそんな感想を漏らすのだった。
◆
「ああ、ここがさっきの少女の言っていた店だな」
ゴンドラでの移動を終えたクロノたちは、とある宿屋の前にやってきた。
多少値が張ってもいいから、安心して泊まれる宿屋を教えてくれと船頭の少女に頼んだところ、ここを紹介されたのだ。白塗りの五階建ての宿屋だ。周りの店と比べると少しだけ高級感が漂っている。
「いらっしゃいませ、お二人でご宿泊でしょうか?」
建物の中に入ると、白と黒を基調とした給仕服を着た女性に出迎えられた。
一階の空間は全てエントランスとしての用途に割かれているようだ。
受付カウンターの他には、宿泊客が寛げるように、ソファーやローテーブルなどが備え付けてある。
「はい、二人部屋でお願いいたします! できればダブルベッドのあるお部屋がいいのですが……♡」
給仕の女性に、真っ先にアリアフィーネが対応する。
二人部屋……それもダブルベッドのある部屋を所望するのを察するに、アリアフィーネは今夜もクロノと〝にゃんにゃん(意味深)〟する気なのだろう。
もはやエルフではなくエ
給仕の女性もそれを察し、想像してしまったのだろうか。
頬を少し赤く染め、口元を少しだけ緩めてしまう。
だがそこはプロ。すぐに真面目な表情に戻ると「かしこまりました。ぴったりのお部屋がございますので、ご案内させていただきます」と接客スマイルで対応する。
(ふふふ……っ、今夜は寝かせませんからね、ご主人様っ♡)
部屋へと案内される途中で、アリアフィーネは心の中でそんなことを呟きながら、またもやクロノに密着し、その豊かな胸を……むにゅんっ! と押しつけるのだった。
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