第9話 メイド服とご主人様
「ふむ、どうやらここのようだな」
広場から歩くことしばらく――
クロノたちは様々な店が立ち並ぶ商業区へとやってきた。
そしてクロノとアリアフィーネの目の前には綺麗なショーウィンドウが印象的なとある店が……もちろん、目的の服飾店である。
(こういった場所に入るのは初めてだが……まぁ、何とかなるであろう)
人の生活などしたことのないクロノは少しの不安に駆られるが……意を決して、店の中に入る。
「いらっしゃいませ! ……まぁ、なんて可愛らしいお客様たちなのでしょう……!」
店に入った途端、そんな声とともに一人の女性店員に迎えられた。
クロノとアリアフィーネを交互に見つめ、うっとりとした表情を浮かべている。
二人の整った容姿に夢中で、アリアフィーネの格好に気づかないようだ。
「彼女と吾輩の服が欲しいのだが……」
「かしこまりました。どのような服をご所望ですか? お二人ならどんな服もお似合いになると思いますよ!」
興奮した様子でクロノに対応する女店員。
見た目の良いクロノとアリアフィーネを見て、服飾店に勤務する者として腕が鳴る……といったところなのだろうか。
「吾輩のは普段着用に適当に見繕ってくれ。彼女の分は彼女の好みに合わせて選んでやってほしい。予算は……これで足りるか……?」
そう言って、ポケットの中でストレージを発動させると、クロノは金貨を二枚取り出し、女店員に差し出した。
すると女店員は――
「こ、こんなによろしいのですか……!?」
――と、驚いた声を上げる。
硬貨の価値を、クロノはよく理解していなかったので適当に出してみたのだが……。
今、クロノが取り出した硬貨――金貨は気軽に支払えるような硬貨ではない。
この都市、リューインであれば、金貨二枚でひと月は暮らすことができる……それくらいの価値があるのだ。
(む、どうやらずいぶんと高価だったようだな。皇帝からの報酬にいっぱい入っていたからそれなりの価値のものだと勘違いしてしまった……)
アリアフィーネに硬貨の価値を教えてもらっていればよかったと、若干後悔しつつも、出してしまったものは仕方がないと、クロノはそのまま買い物を続けることにする。
「それでは、エルフのお嬢さんはこちらへどうぞ!」
この店は、半分は男物、半分は女物……といった感じで、どちらにも対応できるように品物を揃えているようだ。
アリアフィーネは女店員に連れられて、女物のコーナーへと向かう。
クロノの元には別の店員がやってきて、こちらも適当に見繕ってもらう。
(ふむ……特にこだわりもなかったのですぐに終わってしまったな……)
十分もしないうちに必要なものを揃えてしまったクロノ。
アリアフィーネは時間がかかるだろうと店員に説明され、そのまま店の隅に設置されたソファーに通された。
(そういえば、最近まともな睡眠をとってなかったな。せっかくだし、アリアフィーネの買い物が終わるまで寝かせてもらうとするか)
帝国からの逃避行、野宿をする間も、アリアフィーネを寝かせてやるために、クロノはほとんど寝ずに警戒に当たっていた。
ベヒーモスとのステータスを引き継いだので、体は丈夫ではあるが、やはり幼い体であるため、少々眠くなってきてしまうのだ。
気づけば、ソファーの心地よさも手伝って、クロノはうつらうつらと意識を手放しそうになっていた。そんな時であった――
「お待たせしました! 〝ご主人様〟っ♡」
――元気のいい、それでいて甘い声がクロノの意識を覚醒させる。
どうやら服を選び終わったようだ。
少し頬を染めながら、アリアフィーネが「いかがでしょうか……?」と、両手を広げて身につけた服の感想を求めてくる。
「ほう……これはずいぶんと可愛らしいな。しかし、そのご主人様というのは……」
素直にアリアフィーネの格好を褒めるクロノ。
長いプラチナの髪は綺麗にシニヨンでまとめられている。
そして、彼女が選んだのはメイド服と呼ばれる代物だった。
しかし、ただのメイド服ではない。
スカートの丈はこれでもかと短く、彼女のほどよくむっちりとした太ももが大サービス状態だ。
さらに、その太ももはツヤのあるガーターストッキングで包まれており、美しい白い肌をより妖艶に演出する。
そして極めつけは、大きく開いた胸元だ。
アリアフィーネ自慢のメロン級の柔らか果実が深い谷間を作り、太ももと同じく、こちらも大サービス状態だ。
「クロノ様、これは偽装のためです♡」
クロノの質問に、アリアフィーネが小声で……しかし楽しげに答える。
その答えに、クロノは「偽装……? どういうことだ?」と聞き返すと……。
「この服はメイド服という、従者が主人に仕えるための奉仕服です。一国の姫が、まさかこのような格好で従者のように振る舞うなど、誰も思いも寄らないと考えたんです……♡」
……と、メイド服を選び、クロノを「ご主人様」と呼んだ理由を答える。
「ふむ、なるほどな……」
アリアフィーネの説明に、クロノは何度か頷きながら納得する。
……まぁ、ぶっちゃけ。
アリアフィーネがこの服を選んだのは、単純にデザインが可愛かったからというのと、露出の多い格好でクロノを誘惑したいというのと、あとはクロノへの愛情がいきすぎて、彼の所有物になってしまいたい……などと考え始めたのが大きな理由だ。
ゆえに、一国の姫であるにも関わらず、少々興奮した様子でクロノのことを、ご主人様と呼び始めたというわけである。
「ふふっ……行きましょう、ご主人様っ♡」
「む、ああ……そうだな」
アリアフィーネに腕を組まれ、そのまま店の外へと連れて行かれるクロノ。
あまりに可愛らしく、そして心なしか、さらにアグレッシブになったような気がする彼女に、クロノは言われるがまま、ついていくことしかできないのであった。
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