第4話 オレの人生
「オレが残る」
「お前らは生きろ」
こいつらに任せるとしよう。
「バンディラス!? みんなで……、みんなで生きて帰ろうって約束したじゃないか!!」
地面が揺れるのは、勇者のせいじゃない。
主を失った魔族共が大波となって押し寄せてくるまで、もう時間はない。
これだけ余力が残ってるんだったら、オレらが魔王と戦っている時に参入すれば良いのによ。いったいどこに隠れていやがったってんだ。
「残るなら全員でだ! そうすれば、そうすればきっと!」
「魔力の枯渇した魔法使い二人に、息も絶え絶えな山賊一人、残るは満身創痍の勇者様だ。生き残る可能性がどこにある」
「でもッ! でも!!」
「誰かが残らなきゃいけねえなら残るのはオレだ、合理的に考えて。そうだろう、魔法使い様よォ」
犯罪者と一緒なんてありえない。あんたなんて認めないとさんざん喚き散らし続けた元気を……、最期まで見せてくれても良いじゃねえか。
「バンディラス……」
「姫さん、ひとつ頼みを聞いちゃくれねぇかい」
「……なんでも、仰ってください」
オレらのなかで誰よりもちっこいお姫さんが、やっぱり誰よりも肝が据わっていやがるよ。もう、オレが残ることに覚悟を決めてくれたんだから。話が早いってのは良いね、本当。
「王都でオレの帰りを待つ
「承りました。王女の名に於いて、その願い必ずや聞き届けましょう」
これで良い。
オレの帰りを信じて檻の中で待つあいつらは、何と言うかね。悪いな、バカ共。オレだけ檻に入ることなく先にいかせてもらうとするわ。ざまぁみやがれ。
「駄目だ……、駄目だバンディラス……。きっとみんなで帰る方法が!」
「考える時間を奴さんはくれねぇってさ。にしてもどこに居たんだ、あの量が」
「……魔王が死ぬ寸前に転移魔法を使ったのよ」
「イタチならぬ魔王の最後っ屁かよ」
なるほど。各地に散らばる配下を呼び寄せたってわけか。
戦いの最中に呼び出さなかったのは王としての意地かね? その意地抱えて素直に死ねよ。
来るわ来るわの魔族の大群が。
数えるのも馬鹿になるほどの数がこちらへ押し寄せてくる。ありがたいことにここは広くはない一本道だ。
「バンディラス!!」
「魔王が死んで終わりじゃねえだろう!!」
「ッ!」
短くはねえ期間を旅してきた。
その間に、色んなものを見てきたよな。それは、魔王が死ねば解決する問題だけだったのか。
「てめぇは勇者だろうが!! 役目から逃げてんじゃねえよ!!」
魔族が悪なのか。
オレたち人間が正義なのか。
そんなことは知ったこっちゃねえ。
色んなもんを踏みつけて、オレたちは生きる道を選んだんだろう。死にたくねえが何よりも強いんだ。
「救うんだろうが! この世界!!」
あの時。
てめぇはオレに約束したよな。犯罪者でしかねえこのオレに。ゴミでしかねえこのオレに。
誰もオレなんぞと約束なんかしたがらねえ。犯罪者は約束を守らねえから。
そんなオレのありがてえ忠告を無視しててめぇはオレに勝手に約束しやがったんだ。守ってもらわねえとこっちが困る。
「……バンディラス」
「なんだ」
「…………約束だ。生きて、戻ってきてくれ」
「……分かったよ」
「……ッ! 待ってるから!!」
長いこと一緒に居てようやく初めて交わした約束を、破るオレはやっぱり屑か。
やっとこそ前へと勇者が足を踏み出せば、オレの身体が淡く光る。って、おいおい……。
「魔力枯渇してたんじゃなかったのかよ」
「うっさいわね、いま本当になくなったわよ」
オレにバフかける魔力があるなら他に使えよ、合理的に考えてよ。
「……清々、するわよ!!」
「バンディラス、ありがとうございます」
二人は本当に姫さんを見習えよな。
彼女だけがしっかりオレに頭を下げて別れを告げてから歩き出したぞ。
「さぁって……」
魔王の鎧すら勝ち割ったオレ自慢の大斧も、もってあと数撃か。そもそも、それだけ振れる体力が残っていればの話だが。
腐っても勇者一行だ。ここまで来たのは伊達じゃねえ。
どれだけ傷つこうが、どれだけ魔力が枯渇しようが、ただ走って逃げるだけならやってのける。常人とは、精神の異常性が違うんだよ。
後ろのことを気にしなくて良いのは助かるね。ただ、暴れればそれで良い。オレにはぴったり過ぎて泣けてくる。
先頭を走るのは馬の魔族か。あいつら、見た目通りで足が速いがそれだけだ。
大して広くもねえ一本道。
腰を据えて構えていりゃ簡単だ。
「ここから先は」
大斧を持ち上げる。
可愛げのねえ魔法使い様のおかげでまるで爪楊枝みてぇに軽く感じる大斧を。
「行かせねえ」
気持ちの悪い馬面に振り落とした。
※※※
何分だ。
「ぁぁぁァアアア!!」
何分経った。
身体の感覚なんとっくにイカレちまった。
オレはいま、何を殴っている。何で殴っている。
――あんた今自分が何て言ったか理解してるの!?
肉が潰れる音がした。
潰れたのは魔族か? それともオレか?
――勇者様。彼は、山賊で……、つまり犯罪者です。
肉が焼ける。
ああ、これはオレの肉だ。オレは……、魔法なんて使えねえ。
――嬢ちゃん達の言う通りだ。てめぇ……、本気で死にてぇらしいなァ!!
指が、曲がらねえ。
知るか。そのまま殴れば良い。指の骨が欲しければくれてやる。まだ、折れてねえのがあったらな。
――理解しているし、死にたくもないよ。僕は、バンディラス。君を仲間にしたい!!
山賊として生きて来た。
人様に言えねえこともやってきた。オレのせいで不幸になった人間の数を数えちゃ日が暮れる。
オレはオレの人生を、誇りこそしねえが恥もしねえ。
誰だって死にたくはねえもんだ。自分が生きるために、てめぇの大事なもんを生かすためにやってきたんだ、それの何が悪い。
誰に後ろ指を指されようが、どれだけ石を投げつけられようが。
誇れないオレの人生を恥じたりなんか絶対にしねえ。恥じたりしたら、オレは何のために人を殺してきた。
誇れもしねえ人生なんざゴミ屑だ。
勇者と一緒に世界を救ったところできっと世間はオレだけは認めやしねえ。それで良い。手のひら返しで褒められでもしたら反吐が出る。
ざまぁみやがれ。
オレは最後までオレとして生きたんだ。犯罪者として生きて、犯罪者として逃げ切って、犯罪者として誰にも見られずに死んでやる。
それでも。
「うぉおぉぉおオオオオ!!」
通り抜けようとした馬鹿の顔面を手のひらで押し倒す。
暴れようが気にせず押しつぶして地面に汚ねえ花火をつくる。代償は、俺の身体。皮膚が溶けているってことは毒持ちか。
それでもよ。
誇れもしねえ。誇っちゃならねえ屑みたいなオレの人生を。
誰よりも馬鹿で、誰よりもお人好しで、誰よりもマヌケで、誰よりも良い奴で、誰よりも優しい。
誰よりも最高だったあいつらを生かすために死んでいくオレの人生を。
どうか今だけ。
今だけ、誇るわけにはいかねえかな……。
見たことも、声も聴いたこともねえ神様よ。
どうか、屑なオレの最期の自分勝手な最低な願いを。
許してくれやしやせんか……ッ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます