第23話 暗雲

I国でのライブは大成功だった。

2日間のライブの為、T国に入った。

1日目が終わりホテルに入る道中、ふと、街のビルにある大型スクリーンに速報でニュースが映る。

「女子サッカー代表、黒木選手が重体!

○月△日午後4時、‥市‥町交差点で事故を起こした車が信号待ちしていた小学生にむかって突進してきたところ、居合わせた黒木選手は助けようとしたとのこと。小学生は軽症。黒木選手は病院に運ばれてましたが重体…」

自分の顔から血の気がひくのがわかる。

ホテルにつくなり、自分の部屋に行き彼女の携帯電話を鳴らす。3コール、4コールいつもより長く聴いているだけで暗く深い闇に落ちそうになる。

その夜は結局つながらなかった。

ニュースをみてから2日がたった。

明後日S国に帰らなければならない。


T国で最後のライブがはじまる前に、また携帯電話をかけてみた。コール音が永遠につづき、深い海の底に沈んでいくような気になる。


その日も何度かかけたかわからない。

ライブ直前だった。7コール目につながる。

「もしもし…」

「黒木の…クロキユリの携帯ですが…。」

電話に出たのは彼女ではない。何を話せばいいのか、すぐに言葉にでない。

「間違っていたらすみません。もしかして、ユウさん?」

「はい。そうです。」

「ユリから聞いています。私はユリの母のミサです。心配で電話してくれたんですね。ありがとう。」

「ユリさんは?彼女に会うことができますか?」

「ユリは目を覚ました。会いたいって言ってくれてありがとう。ユリの入院した病院は…ですが、会って後悔することになるかもしれませんが大丈夫ですか?」

「え⁈しかし、会わせてくれますか?」

「はい」

「ありがとうございます。必ずいきます。」



T国での最後の公演がはじまった。

最初は彼女と出会う前に作った曲から。衣装チェンジして、彼女と過ごしたときに作ったバラードに差し掛かった途端、涙が止まらなくなった。

どの曲も彼女との思い出がつまった大事なものだから、走馬灯のように思い出す。気が付いたら声がでてなかった。メンバーがみんなこっちをみている。

ファンがびっくりしている。

なんとかしなきゃと思って口を開けても声がでない。振り絞るようにでた言葉は

「ファンのみんなごめん。」


〜〜〜---〜〜〜……〜〜

遂に恐れていたことがおこったとその時にソウはおもった。リーダーのリョウがいち早く気がついて、

ファンの皆に言った。

「ユウは少し疲れてしまったかな。皆で応援して!」

会場が

「ユウ!頑張って。」

「泣かないで。」

ユウのパートは会場のファンがうたってくれた。

「皆ありがとう!ありがとう。」

なんとか最後の曲まで持ち堪えた。

アンコールの声が会場中響きわたった。

声援に答えることができなかった。いや、正確に言うと、最後の曲歌った後ユウがいなくなったから、出ることができなかった。

ユウは公演が終わるや否や楽屋にはいった。

「みんな本当にごめん。」

とかなり落ち込んで楽屋にさきにはいった。

ファンの歓声が止まらないのをリョウが伝えに楽屋にいくと、楽屋にはユウの姿はなく、衣装がきちんとたたまれてその上にメモがあった

「みんな今日は本当にありがとう。そしてごめん。」

ユウは財布と携帯、パスポートだけが入っているバックをもって消えてしまった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る