第14話 彼女
父さんがいない家に帰りたがらない母さんが心配だから、実家と病院を往復する日々となった。
母さんは掃除や買い物、料理を早めに済ませ、自分と僕のお昼はお弁当に詰め込む。お昼前に父さんの病院へ、夜8時ごろ実家に帰るという生活を毎日おこなっている。
父さんは少し入院してその後退院しても、薬が手放せれない。母さんも薬のこと、体調管理のことを主治医や看護師さんに話を聞いたり質問したりと忙しい。
父さんは大好きなお酒がしばらく禁止になり、
「しかたないな。まだまた健康でいないと」
と苦笑いした。
一回だけ自分の家に洋服や荷物を取りにいった。
S N Sで、彼女というより、6時ごろ喫茶店で一緒にコーヒー飲みながら話すことが毎日の日課になった。
病院の裏には大きな公園があり、喫茶店には公園に向かって大きな窓がある。
その窓にそってあるカウンターのような席にならんで座って話しながら、コーヒーを飲む。
彼女は小児科病棟に毎日行っている。
ある日一緒にいる時、色とりどりの紙で何が作っていた。T国では折り紙と言うらしい。
「あまり、わたしは得意ではないのですが」
いくつか鶴や、紙風船等いくつも作りだした。
「上手だね。変わった紙だね。風流だ。」
「千代紙の折り紙なの。」
と言って赤と黄色の千代紙で作った紙風船をくれた。
「ご家族が早くよくなるといいですね。と言う意味もこめて1つと貴方に1つあげます。」
「ありがとう。何につかうの?沢山つくっているね。」
「明日は、小児科病棟のお誕生会なんです。何かできないかなと思って。
小児科病棟にいる子供の中には入院期間が長い子もいて、いつもとは違う日常とかも経験させてあげたいなとか思っていて。」
と話しながらも手はとめない。
一生懸命している彼女の側でたた見つめている時間も楽しい。
次の日看護師さんに小児科病棟に入る許可を得て、誕生日会を見にいった。
風船や色とりどりの紙で飾り付けされている。
彼女が作っていた鶴なども飾られていた。
ちょうど、ハッピーバースディを看護師さんや家族が拍手をしながら歌っていた。
そこにオルガンがあったから、自分も手伝いできるかなって思って思い切って弾いてみた。
どこからか聞こえるオルガンにみんな最初はビックリしたけどオルガンに合わせて歌ってくれた。
小学生なりたてくらいの女の子が近寄ってきて、
「他にも弾いてほしいの。」
「いいよ。何を弾けばいい?」
「学校で教えてもらった、アイアイ。」
「了解。」
1曲弾き終わるころには別の子がきてまた次の曲と10曲近く弾いただろうか。いつの間にかオルガンの回りには沢山の子がいて一緒に歌っていた。
最後に
「お兄さんありがとうございました。」と言って看護師さんに促されてケーキを食べにもどっていった。
彼女や何人かの大人たちからも感謝された。
その日の夕方、彼女はいつものところに現れなかった。
S N Sには
「今晩急に帰国することになってしまいました。
あなたのオルガンが聞けて、その姿に感動しました。本当にありがとう。」
と書かれていた。
「 S N Sは連絡していい?」
「なかなか返信できないかもしれませんが、大丈夫です。」
「じゃ、また」
病室にもどると母さんが明日父さんが退院できると嬉しそうしていた。
どうも、神様がくれた奇跡的な時間は終わりらしい。僕の手には紙風船だけが残った。
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