第5話
「カリヒの忠言に従おう。一人一人の言葉を待ってからにしたかったが、どうやらそれも許されないようだね。残ってくれた五人には、今から私の指示に従ってもらう。」
そう言い切ると、彼女は五人それぞれに別々の任務を言い渡した。アルカルド、ひょろ長い男——プフェ、そして私は、それぞれトルコワ、ゾリヌス、ソニアへ行くように指示を受けた。魔導士以外にも源を行使しうるものを集め、出来うる限りの勢力をそろえたいとのことだったが、不安げに彼女は続けた。
「魔導士は国渡りが出来るからこそ、国を越えた事象を見極められる。いくら源を行使しうると言え、彼らは魔導士ではない。そもそも、消えた人や国自体を認識できなくなっているかもしれない。」
歓迎は期待しない方がいい、下手したら大嘘付きとして罪に問われると魔導士は鋭く忠告をした。私は頭の中で、更には苦労して得た協力も役に立つかはわからない、と付け足す。
幸い、ソニアの現当主とは、定期的な交流がある。少なくともほかの二国よりかは、友好的かつ平和的に話を持ち出すことが出来るだろうと、小さく胸をなでおろす。
「残りの二人は、人にあたってくれ。人為的な事象ではないように感じるが、可能性は潰しておくべきだ。この事象を引き起こすに足る力を持つ者は、私が知りうる限りでは二人いる。それぞれを訪問し、状況を確認してきてほしい。」
カリヒとミラが、その言葉に淡々と頷く。二人は先生からメモを受け取ると、中身を確認してすぐに国を渡っていった。アルカルドとプフェがそれに続く。最後に残った私を、先生は切なそうに見つめてきた。
「久々の再会が、こんなことになるとはね。」
「……そうですね。……もっとゆっくりと、お話をしたかった。」
悲しくて思わず目を伏せると、彼女が音もなくそっと近寄った。
「サラ、私も痛いほどに悲しいとも。けれど、今は一刻を争う。わかっておくれ。」
「大丈夫です、事態の重大さはわかっているつもりです。そんなことよりも、あなたの力が心配なんです——。」
先生が驚いたように、ほんの少し目を見開く。私は目頭に熱を感じながらも、出来るだけ冷静に言葉を選んだ。
「以前ならばすぐに視ていたはずです。こんな緊急事態であなたがそれをしないはずがないと思っていました。——もう、視たのですよね? そして世界の崩壊を知った。けれどそれに対抗する手をまだ視れないほどに、力を使い果たしつつあるのでしょう?」
少しずつ、だが確実に、目の前の彼女の終わりは近づいている。そのことをひしひしと感じる。先生は私の顔をじっと見つめると、何も言わずに抱きしめた。
「この世の摂理だよ、サラ。大丈夫、いつかは私も死んでしまうが、それは今日ではない。」
いいかい、と彼女は静かに言葉を繋ぐ。
「どうしようもないことに心を囚われてはいけない。今できる事を考えなさい。」
さ、行っておいで。そう優しく笑うと、彼女は自身の準備のために、島の中心の塔へと向かった。あとには私一人だけが残る。
両頬を強く挟むと、鋭い音と共に鈍い痛みが走った。
泣いている場合か、サラよ。
「やることが山ほどあるわ。」
そう自分に言い聞かして、ソニアへと国を渡ったのだ。
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