第42話 新たな装備
メイリンさんと細々とした打ち合わせを行い、彼女が退室してから僕は少し考えごとをしていた。
今回、馬車というかロバと荷車を購入することになったので、そこに何か手を加えられないか考えていたのだ。
それをミィスがなぜか心配そうな顔で眺めている。
「ん? ミィス、どうかした?」
その表情に気付き、僕は少し首を傾げて問うてみた。
ミィスは僕の質問に、慌てたように手を振って答える。
「ううん、なんでもないよ!」
そこで僕は先ほどのやり取りを思い出した。
先ほど、ミィスは僕の悪ふざけにかなり強い態度で反応していた。
ひょっとしたら、言い過ぎたなんて考えているのかもしれない。
「さっきのは別に気にしてないよ。無視されるよりよっぽど嬉しいし」
「……怒ってない?」
「もちろん。僕もミィスの反応が楽しみでやってるところがあるからね」
「よかったぁ」
ミィスはホッとしたように胸に手を当て、大きく息を吐き出していた。
こういう心配性なところは、彼の悪いところと言えるかもしれなかった。
「そうじゃなくて、さっき馬車を買ったじゃない?」
「うん」
「その馬車を改造できないかなぁって」
「うん?」
「使い捨てる可能性もあるからロバにしてもらったけど、ロバって持久力はあるけど足は遅いし力も少し劣るじゃない?」
「そうだね」
「だからロバが歩く力をサポートする装具みたいなのを考えてた」
「うん?」
ミィスは『なにを言っているんだ、こいつ』みたいな顔をしてくる。その表情は少し傷つくぞ?
先も言った通り、ロバは持久力の面で馬を超えるが、牽引力や最高速度の面で劣る。
反面、馬より小柄な分、食料も少なくて済む。
装具に付与して弱点を補えば、ひょっとしたら馬を上回るロバが誕生するかもしれない。
「――というようなことを考えていたんだ」
「馬を超えるロバって……何その超生物?」
「人間だって、テーピングすることで動きが良くなったりするじゃない」
「そうなの? テーピングって何?」
「布なんかを巻いて固定したり、動きを補助したりする技術かな。そういうのって、まだ知られてないのかな?」
「少なくとも、ボクは知らないかな」
テーピングというのは、ある意味現代医学の成果と言える。
元々は怪我の予防や防止目的で発展した分野だ。それが人間にしか通用しないということはないはず。
ロバも思う存分身体を動かせるとなると、さらなる身体能力を発揮するかもしれない。
「というわけで、そこを補う装具を考えようと思います。最終的にはミィスにも装備してもらうかも」
「え、ボクも?」
「うん、もっと動けるようになりたいでしょ?」
「それはもちろん。でも人体実験はちょっと……」
「大丈夫、僕を信じて」
「シキメさんの開発面の自重に関しては、信じられない」
「それはひどい」
ショックを受けた顔をしてみせるが、まぁ、この世界に来ていろいろやらかしたことは事実だ
ともあれ、今はロバの装具を考えよう。
「やはり足回りの強化は必須だと思うんだよね」
「馬は足を折ると二度と歩けなくなる可能性もあるからね」
「そこで関節を補強しつつ、身体を支える構造を作ろうと思うんだ」
「でも、変に体重がかかると、そこに負担がかかるんじゃ?」
僕が考えていたのは、関節部を補強するギプスのような構造。
変な方向に力がかかるのを防いで、耐久性を増すように考えていた。
しかしミィスが主張するように、変に力をかけると体重を支えきれずに逆に怪我してしまう可能性があった。
「うーむ……」
「やっぱ自然に任せるのが最適なんじゃ?」
「そうだ、体重が支えきれないなら、体重を軽くしてしまえばいいじゃない」
「ハァ?」
武器の重量を軽くする【軽量化】の付与魔法は存在する。
それを生物にかけることができれば、負担も軽減するはずである。
「いやシキメさん。その魔法は生き物にはかけられないんでしょ?」
「それが実は、試したことがない」
なにせゲームの中の魔法である。
ゲーム内ではアイテムにしかかけることができなかったので、馬にかけるなんて試したことがないのは当然だ。
しかし『かけたことがない』と聞いて、ミィスは呆れた様な顔をした。
「シキメさんって意外と抜けてる?」
「なにおぅ!?」
まぁ、ミィスがこういうのも無理はないので、こめかみに拳を押し付けてグリグリする程度で勘弁してやろう。
またしてもベッドに押し倒されたミィスは、涙目になって悲鳴を上げていた。
その声に被虐心をそそられたのはナイショである。
「冗談はこの程度にして」
「ボクは冗談でこめかみを抉られたの?」
「男の
「なんか発音が変なんだけど?」
ともあれ、連れて来られるロバの体格が分からないので、その辺のサイズを微調整できるようにしないといけないだろう。
膝を保護しつつ、装着者の体重を軽減する。
同時に筋力などは落ちないようにしなければならない。
そう言ったことを考えつつ、装具をデザインしていく。
「シキメさん、これなに?」
「……ロバの装具」
「サイじゃないの?」
「そう見えないことも無い、かもしれない。多分? きっと……」
僕はデザインセンスがないため、設計に描いたデザインはまるで金属製のサイのようにずんぐりとしたシルエットだった。
「うぬぅ、そう言うならミィスが代わりに描いてみてよ!」
「え、いいの?」
「もちろん! 紙とペンは僕が提供してあげるから」
「やった。実はお絵描きって楽しそうだなって思ってたんだ」
「そんな子供の遊びみたいに」
しかしここで、ミィスは意外な才能を発揮してみせた。
きちんと写実的なロバの絵を描き、そこに鎧のような装具を装着させたものを描き上げていく。
弓といい、絵といい、この子ハイスペック過ぎやしないか?
「ねぇ、ミィス。絵を描くのは初めて?」
「うん。あまり描いたことはないかも。でも見たものを直接写し取るなら、わりと簡単なんじゃない?」
「そんなことはない。というか多分、器用さがずば抜けて高いからなのかなぁ?」
なんにせよ、優れたデザイナーがそばにいるなら、利用しない手はない。
僕はミィスにあれこれ指示を出してデザインの細部を詰め、外装部分は完成したのだった。
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