第27話 自重しなかったツケ

 ミランダさんに服を見繕ってもらって以降、僕の錬金術は更にペースが上がった。

 元々丈の長めのスカートでは、回復ポーションの練成作業に支障が出ていた。

 さらにミィスの小屋は机の類が存在しない。

 食事を便利にするための小さな膳くらいしかないので、基本的に床に座り込んで作業することになっていた。

 しかしそれだと、スカートの裾などが非常に錬成作業の邪魔になる。


 今回見繕ってもらった服装は、ミニスカートにスパッツだけであり、邪魔になる時は白衣は脱げばいい。

 上もゆったりとしているが、みぞおちくらいの丈しかないタンクトップなので、作業の邪魔にはならなかった。

 上から見ると胸の谷間や先端もばっちり見えるので、ミィスへのアピールも万全だ。


「ミランダさん、ぐっじょぶ」

「ん、なにかいいました?」

「ミィスが胸を覗きに来てくれなくって、寂しいなって」

「ハイハイ」


 残念ながら、ミィスは僕の作業を邪魔しないように、錬成中は近寄らないようにしている。

 非常にお行儀のよろしいことで、目論見が破れた僕としては『がっでむ!』と叫びたい気分だった。

 それにミィスも、最近は僕のセクハラに慣れてきたのか、挑発を受け流しつつある。


「早くも倦怠期なのだろうか?」

「なに言ってんですか!」


 僕の手が空いていることを確認したうえで、後頭部をペシンと叩いてくる。

 こういったスキンシップをミィスからしてくれる程度には、ボクに心を許してくれているのだ。


「いっそ錬金用の机とか作っちゃおうかなぁ」

「確かに腰に悪そうな態勢ですからね」

「女の子の腰は大事だしねぇ。ハッ、ここで身体を傷めたら、ミィスが責任を取ってお嫁にもらってくれるかも!」

「その前に身体を大事にしてくださいよ! そりゃ、貰いますけど……」


 最後の方はよく聞き取りにくかったので、僕は立ち上がってミィスの背後から抱き着く。

 なにを言ったのかは、把握してるんだけどね。


「ん~、今なんて言った? 聞こえなかったから、もう一回言って? ほら、ほら!」

「そう言うイジワルを言う人には、言いません」

「ちぇー、けちー」


 言いつつも胸をグリグリ押し付けてみるのだが、反応は芳しくない。

 これは親しくなり過ぎて、家族みたいに思われているのか?

 だとすれば、これは由々しき問題である。


「これは意識してもらうための改革が必要だ!」

「必要ないからァ!」

「まぁ、それはそれとして、机は作ろう。この辺のスペース借りていいかな?」

「いいですよ。何でしたら、食事の時も便利なようにテーブルとイスも」

「ちなみにここに、耐久力が天元突破した机が……」

「そんなのはいらないです!?」


 象が踏んでも潰れない机を作ろうと対抗心を燃やしたあげく、ドラゴンがぶん殴っても壊れない机を作ってしまったことがある。

 エンチャント可能な領域を全て耐久力上昇で埋めただけの机だ。

 正直、イージスの机と言っても過言ではない耐久力は、今ではやり過ぎたと反省している。

 ともあれ、机を作る許可が出たのだから、パパっと作ってしまおう。


「シキメさん、普通のだよ、普通の!」

「ハイハイ、なんのエンチャントもしないよ」

「ならいいけど」

「素材はベヒーモスの大腿骨が丈夫でいいかな」

「もうダメだぁ!?」


 頭を抱えて慟哭するミィスに、さすがに悪いと思って、普通の木材を取り出した。


「冗談だよ、冗談。ほら、こっちのは普通の樫材だよ」

「うぅ……心労で胃が痛くなってきた」

「ミィスが老け込むのは、まだ早いよ」


 彼は素直な反応を返してくれるので、どうしてもからかうのがやめられない。

 その点はきちんと反省しておこう。


 ミィスの反対もあったので、あくまで普通の机を作っていく。

 もっとも、接合部が釘だけだと不安だったから、錬金術魔法の【融合】を使って強度は上げておいたけど。


 こうしてリビングテーブルと錬金用の作業台が完成した。

 ちょっと高級な素材なので小屋の景色とずれがあるけど、便利だからよしとしよう。


 完成した机といすの使い具合を確認するため、十級ポーションを十本ほど作ってみる。

 やはり床に座ってやるよりもよっぽど楽で、精密に作ることができた。

 おかげでいつもの五割り増しくらいの速度で完成したので、早速ギルドへ納品しに行くことにした。

 回復ポーションは常に需要があるため、少数でも持ってきてくれとミランダさんに告げられていたからだ。


「そう言えば僕、自分のことばっかりで、ミィスの家とか後回しにしてたなぁ。ゴメンね?」

「なに言ってるの、それって普通のことでしょ」

「そうはいかないよ。ミィスは家主で、恩人で、僕の恋人なんだから」

「最後だけは違う!」

「そうだね、夫だった」

「もっと違うし!」

「僕の事、嫌い?」

「……そんなわけ、ないじゃない」


 少し媚びた風にして目を潤ませると、ミィスは顔を赤くしてそう答えてくれた。

 脈が無いわけじゃないということが分かっただけでも、収穫というところか。

 ミィスの反応にウムウムと頷いて手応えを実感していると、ギルドの方からミランダさんが走ってきた。


「あれ、どうしたんだろ?」

「ん? あ、ミランダさんだ。こっちに来るね」


 僕の指摘に、ミィスも首を傾げていた。

 彼女は僕の目の前までくると急停止し、膝に手をついて呼吸を整えていた。

 そんな彼女のために、スタミナポーションを差し出してあげる。

 これはキャラの持久力を底上げするポーションで、これがあると長時間走り続けることができる。

 喉を潤すこともできるので、ちょうどいいはずだ。


「んぐっ、んぐっ、ぷはぁ」

「落ち着きました? どうしたんです?」

「大変なのよ、シキメちゃん! 今ギルドに来ちゃダメ!」

「はぃ?」


 一瞬、ギルド追放されるようなことかと考えてみたが、心当たりが無……無……いや、有り過ぎるな。

 クレーター作ったり、ゴブリン虐殺したり、変なポーション納めたりしてたし。


「ど、どれがバレたんでしょう?」


 僕は恐る恐る、ミランダさんに尋ねてみた。

 もっとも、僕はこの村に薬師として貢献しているので、よっぽどのことが無い限りは保護してもらえるはずだ。


「落ち着いて聞いてね」

「落ち着くのはミランダさんの方では?」

「揚げ足取らないの! 良い? あなたのことが、この国の貴族にバレちゃったみたいなの」

「えぇ!?」


 貴族というと、アレだ。偉くて、金に汚くて、美女をはべらせている連中のことだ。

 自分のイメージながら、偏りまくっていることは自覚している。

 しかし、そんな連中に話が届いてしまったとなると、厄介ごとになる気しかしないのだった。

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