第8話 探索隊への参加
小屋に戻った僕たちは、囲炉裏を挟んで家族会議を行うことになった。
と言っても、話をするのは僕とミィスだけだが。
「どうして迷宮の探索隊参加しようと思ったの? 生活するだけなら、今のままでもいいじゃない」
「そうだけど……今のままじゃ、ボクいつまで経っても足手まといだし」
「そんなことないよ。ミィスと一緒に暮らせて僕は幸せだもの」
見知らぬ土地の見知らぬ村。そんな場所で信頼できる保護者と出会えるということは、どれほど幸運なことだろう。
ミィスはまだ幼いが、この地にしっかりと根を下ろして暮らしている。
その保護を受けることが、僕にとってどれほど心強く思えているか。
「でも、ボクももっと強くなりたいんだ」
歯を食いしばるように、宣言したミィスの目には、不退転の決意が宿っているように見えた。
確かに、ボクが転がり込んできてから、ミィスの生活は向上している。
狩りは順調で、僕の家賃もある。身体も毎日薬を飲んで、快調だろう。副作用だってない薬だ。
「おそらく、今のままでも少しずつ強くなってると思うよ。それにミィスはまだ子供だし」
「それが嫌なんだ。ボクはいつまでも子供扱いだから」
ああ、そうかと思わず納得した。子供がいつかはかかる病気のような物。
大人として認めて欲しいという承認欲求。身体がそれについて行かない、もどかしさ。
もちろん、これを諫めて安全な成長を促すのも大人の役目だろう。
しかし僕は、ミィスよりいくらか年上だけど大人でもない。彼の言い分は理解できた。
「そっか、わかった」
「……じゃあ、入ってもいいんだね!」
「その代わり、僕も行きます」
「ええ!?」
彼の気持ちは分かる。ここで無理に
ならば彼の安全を確保するため、全力を尽くせばいい。
僕が同行し、万全を期して彼を帰還させる。それで何も問題は無くなる……はずだ。
しかしそんな僕の言葉にミィスはいきり立った。
「そんな、危ないよ!」
「その危ない場所にミィスは行くんでしょ?」
「ボクはいいの!」
「なにがいいの?」
「それは」
「それに危なくなったら、ミィスが護ってくれるでしょ?」
「……う」
できる限りの極上の笑みを浮かべて、ミィスにそう問いかける。
ミィスは言葉を無くして立ち尽くし、しばらくしてまた腰を落とした。
「もちろん、できる限りは護るけど、ボクの力じゃ限界があるよ?」
「その時は僕が手伝ってあげる」
「それじゃ『ほんまつてんとー』だよ」
どうやら僕の同行は承知してくれたようだ。あとは彼が全力を出せるように、サポートしてやればいい。
「一緒に行っていいんだね? そうと決まれば、用意しなくちゃ」
「でも、絶対指示には従ってね? ボクもその約束で同行することになったんだから」
「了解、了解」
気安く返事をしながら、僕はインベントリーからアイテムを選別し始めた。
まずは僕の装備よりもミィスの物だ。
インベントリーの中には、ゲーム内で集めたアイテムが山のように詰まっている。
中には弓の装備もあるため、そこそこの物をミィス用に用意した。
そこそこ程度で押さえたのは、あまり強い弓だと威力が強すぎて周囲への被害が予想できたからだ。
続いて鎧。といっても、金属鎧ではミィスには装備できない。
ミィスの体力では、革鎧も怪しいくらいだ。
なので、布製の鎧を用意しておいた。
あとは回復ポーション各種と、解毒薬、解痺薬等々の薬品類。
それといつもより効果の高い筋力強化薬と敏捷強化薬。
それらを購入しておいた拡張鞄に詰め込んでいく。僕の持つインベントリーの能力は皆無ではないが貴重な能力だ。
この力を見られて面倒に巻き込まれるのは、できるだけ避けたい。
ミィスもその辺は理解してくれていて、僕の行動を追及するようなことはなかった。
意外と大雑把な性格をしているのかもしれない。
「ミィス、こっちの服と弓、装備できる?」
「ん、装備はできると思うけど」
疑問符を浮かべながらも、素直に服を着ていく。
魔術師用の服だが、基本的にどの力でも装備できる装備だ。
布製で軽く、それでいてちょっとした革鎧よりも防御力がある。
「うん、ちょっとダボついてるけど、普通に着れるね」
「よしよし。では次はこの弓」
「はーい」
シーフ職用の弓だったが、問題なく引けるようだった。
ギッと軋む音を立てて弦を引く。少し固そうではあったが、充分に使用できるようだった。
「いきなりで不安かもしれないけど、明日はそれで行こう?」
「え、これで?」
「うん。それなりにいい弓だから、きっと役に立つよ」
「そんなの、借りちゃっていいのかな?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。僕は弓使わないから」
「なんで弓使わないのに、持ち歩いているのか」
「それは僕にも分からない」
なにせこの世界に来た理由すら分からないのだから。
ともあれ、遠征の準備はほとんど終わった。
あとは水と食料、それに着替えを用意しておけば、ほぼ完了である。
ロープやランタンなどの細々したものは、ミィスの拡張鞄に入っている。
この小屋に雑多な物が少ないのは、その辺が理由だ。
「よし、それじゃ準備完了ってことで、お風呂に入ろう」
「え、また?」
「そう、また」
ミィスが聞き返してくるのも当然で、この辺ではあまり毎日お風呂に入るという習慣が無いらしい。
しかし元日本人である僕は、毎日入らないと、どうにも落ち着かない。
たらいに水を満たす作業が面倒くさいが、それも収納鞄やインベントリーがあれば、簡単にこなすことができる。
あとは発火石を放り込めば勝手にお湯が沸くので、ある意味日本より便利である。
放置し過ぎると熱湯になってしまうけど。
「じゃあ、ボクは用事があるから……」
「逃がすかぁ!」
ミィスは僕と一緒に風呂に入ることを恥ずかしがる。子供の頃って、性差を気にせず入浴したモノじゃなかっただろうか?
自分の子供の頃は……そう言えばミィスくらいの時は一人で入っていたか?
入浴に関しても、髪が長く無くて助かったと思う。
長い髪の場合、乾かすのにかなり面倒な手間がかかってしまうから。
ミィスと背中を流し合い、頭を洗ってから身体を拭う。この頃になるとミィスは僕の視界から逃れようと動くが、これも仕方あるまい。
僕からしても、挑発する意図が無い訳ではないのだから。
そうして一つしかないベッドに二人で入り、ぐっすり眠って出発の日の朝を迎えたのだった。
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