第6話 異世界の生活
僕がミィスの小屋に転がり込んで、数日が経過していた。
その間に僕は自分の身体の事を、できる限り調べていた。
まず身体能力だが、これは非常に低い数値で安定している。ただし全裸になれば、忍者としてのスキルが解放されて滅茶苦茶な戦闘能力を発揮することができていた。
続いて魔法能力だが、こちらは何の制限もなく使用することができた。
問題は魔法が大火力過ぎて、近くの森にクレーターを作ってしまったことくらいか。はっきり言って味方がそばにいる状況だと、とても使えない。
僧侶系魔法や錬金術系魔法も同じく問題なく使用できていたので、僕はこの小さな村の回復ポーション作りの名人として立場を築きつつあった。
「これでミィスに家賃を払うことができるね」
「そんなの、気にしてないのに」
ミィスはそう言ってくれるが、さすがに十二歳の少年の世話になるのは気が引ける。
ゲーム内通貨にしても、額が額だけに使うのは気が引けてしまう。
だからと言って、村を出るという選択肢は、僕にはなかった。
なぜかというと、ミィスに一目惚れしていたからである。
「いやー、ミィスは可愛いなぁ」
「あの、ボク男なんですけど?」
「そこがいいんですよ!」
そう、僕はこの世界に来て、何の因果か女になってしまった。
この世界で生きていくためには、やはりいろいろなことが問題となってくる。例えば、性的な問題とか。
正直言って、精神が男のままの僕は、そこいらの男に組み敷かれるとか、考えるだけで鳥肌が立つ。
しかしその相手が、少女と見紛う美少年なら、何とか耐えられるのではないか? と、そう考えたのだ。
それとなにより、完全な一目惚れである。
「ところでミィス。お嫁さんはいらないかな? 僕とか」
「もう! シキメさんはそうやって、すぐボクをからかうんだから!」
プゥッと頬を膨らませるミィスを見て、つい頬を緩ませてしまう。
彼はどうやら、僕の名をシキメ、姓をフーヤと勘違いしているらしい。この世界でそれが普通の名前だと考えられているのなら、無理に修正する必要も無いかと放置している。
「それより回復ポーションができたから、ギルドに納品してくるよ」
「あ、ボクも行きます。チャージラットの討伐が規定数に達しましたから」
チャージラットというのは、頭にコブの生えた大きなネズミのような生き物の事だ。
このコブというのが、虹色の石のようなコブで、ゴブリンの額に生えていたものと同じものらしい。
これは体内の魔素が凝縮され突き出たもので、強力な魔物になればなるほど、このコブが大きな角なるらしい。
そして僕のインベントリーには百を超える角が収められていた。
どうやら、あのゴブリンどもの角を自動で回収してくれていたらしい。インベントリーさん、マジ万能。
「そういや、ゲームでも勝手に戦利品がアイテム欄に入ってたよなぁ」
「げーむ?」
「んや、なんでもないよ」
ミィスの暮らす小さな開拓村は、人口が百に満たないほどしかいない。
それでも生息域の最外縁部ということもあり、冒険者ギルドというモノが設置されている。
冒険者とは、武装した軍に所属していない何でも屋のような存在で、この世界でもかなり需要がある存在らしい。
しかし何の後ろ盾も持たない冒険者は、身元の信頼ができない。
そこでギルドが身元を保証することで、世間的な信頼を得ることができるというわけだ。
逆に言えばギルドの規則を破ってしまうと、その信頼を得ることができなくなってしまう。
そうなってしまうと、もうそこらの盗賊と何ら変わりない立場に転落するという仕組みだ。
ギルドの信頼を得る限りは、冒険者としての立場を得ることができる。
しかし裏切ってしまうと、武装したならず者と認識されてしまう。
だからギルドは裏切れない。それがこの世界の冒険者という存在である。
「荒事が多いから、ポーションを納品してくれるシキメさんはありがたいって、ギルドの人が言ってましたよ」
「僕みたいな旅行者を信じてくれるとか、チョロ……ゲフンゲフン。いや、信じやすい人だなとは思うけどね」
「ギルドは結果が全てですからね。有用な薬を提供してくれるなら、出自とかどうでもいいんですよ」
「それを子供に諭される僕って、世間知らず極まってる?」
「いい大人は、僕みたいな子供に求婚なんてしませんから」
「それを言われるとつらい」
そう言って村の中でも一際大きな建物の中に、足を踏み入れる。
中では冒険者たちがすでに大勢たむろしている状態だ。この村の近くには迷宮と呼ばれる稼ぎ場所があるので、四十名程度の冒険者が来訪している。
はっきり言って、村の収容限界を超えていると思うのだが、そこはギルドが宿泊施設を提供することで、どうにかやりくりできていた。
最初、僕がそこに泊まれなかったのは、ギルドに加入していなかったかである。
「ちわーっす。ポーションお持ちしましたぁ」
「あ、シキメさん。待ってたんですよ!」
すでにこの数日で顔見知りになった受付のお姉さんが、僕に向けて手を振ってくれる。
彼女もああ見えて結構な手練れで、服を着ている僕くらいなら余裕で取り押さえることができる。
荒くれ者な冒険者たちを相手にするのなら、それくらいの実力がいるということだろう。
「確認しますので、しばらくお待ちくださいね」
「はぁい」
「それじゃ、ボクはあっちの納品受付の方に行ってきますね」
僕とミィスでは納品する品が違うため、受付の場所が違う。
僕が確認を受ける間に、ミィスも納品を済ませてしまおうという考えだった。
「うへー、相変わらず高品質の回復ポーションですね。これ八級くらいの効果がありますよ」
「え、マジで? それ十級なんだけど?」
僕が習得している錬金系スキルで、ポーションの作成も可能だ。
特にクリアレベルを大幅に超えている僕は、素材さえあればほぼ全てのポーション作成が可能となる。
そのための知識は、なぜかすぐに『思い出す』ことができた。
おかげで日々の糧には困らずに済んでいた。
「とんでもない! こんな辺境だと十級でもあれば御の字なんですよ。それなのに八級に匹敵する効果がある十級とか、ありがたいを越えて崇めたいくらいです」
「そうなんだ? でも崇めるのはヤメテね」
ゲームでは、十級とか九級は初心者向けのタダ同然のポーションだった。
それでもこの近辺では需要があるのか、かなりの速度で売れているらしい。
「そういえばシキメさんは魔法もこなせるんでしたっけ?」
「ええ、まぁ」
魔術師系と僧侶系、それに錬金術とゲーム内にある魔法は全て使用できる。
その威力も半端なものではなく、クレーターを作った時は言い訳に四苦八苦したものだ。
そばにいたのが純朴なミィスだったおかげで、どうにか誤魔化せたと言っていい。
「実は迷宮の方で、大規模な探索隊が組まれることになりまして」
「パス」
「そこをなんとか!」
「僕は平穏に生きていきたいんです!」
そもそも僕は近接戦を封じられた状態に近い。戦うためには裸になる必要がある。
そんな僕が、死地である迷宮に潜るなんてまっぴら御免だ。
「うう、つれないですぅ」
「それより早く代金払って」
「はいぃ」
僕の催促にしぶしぶお金を支払うお姉さん。
これもまた、いつものやり取りだったりするのだった。
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