第5話 衝撃の事実(オーク級)

 十年間、僕は同じゲームを延々と続けてきた。

 その結果、所持できる限界まで所持金を集め、数多くのアイテムも集めきっている。

 そのわけの分からない執着の結果が、この一七二億ゴールドという所持金である。

 しかしこの世界もゴールドが貨幣単位とは限らなかった。


「この金貨一枚で一万ゴルドだから……うん、二枚で職人の一か月分の給料ですね」

「そ、そうなんだ。ちなみにぶしつけだけど、ミィスちゃんは月どれくらい稼いでいるのかな?」

「ちゃん……いえ、ボクの場合、五千ゴルドってところですね」

「それ、すごく安くない?」

「ボクは猟師としては半人前ですから」


 悔しそうに唇をかむ彼女の姿に、この村での境遇が見て取れる。

 おそらく、村に寄与できない彼女は、あまりいい待遇を受けていないのだろう。


「じゃあ、この金貨はギブソンさんと二人で分けて。僕の命を助けてくれたお礼だから」

「え、でも」

「僕はほら、まだあるから」


 そう言って懐に手を突っ込み、もう一枚取り出してみせる。

 もちろん服の下には何もないのだが、何もない場所から取り出したのでは妙に思われてしまう。

 もっとも、すでに一つ取り出しているので、もう遅いかもしれないが。


「いいん、ですか?」


 言葉をつっかえさせながらも、断る力はなさそうだった。やはり彼女の生活は、かなりカツカツだったらしい。


「そうだね。あ、僕は旅を続けててさ。できれば、しばらくここに住まわせてくれるとありがたいんだけど?」

「え、ここにですか!?」

「この村に宿屋とか、あるかな?」

「小さな開拓村だけど、一応あります。でもあまり綺麗じゃないけど。あ、でも、この小屋よりはマシ」

「んー、見知らぬ人の宿に泊まるより、君の小屋の方が快適そうなんだけどね」


 ちらっと流し目で、わざとらしく媚びてみると、彼女は顔を赤くしてコクコクと頷いてくれた。


「やった。じゃあ、しばらくはよろしくね!」

「こ、こちらこそ」

「あ、もちろんできる限りは僕も手伝うから。多分結構いろいろできるよ」

「それは助かりますけど」


 ゴブリンの首を刎ね飛ばすほどの手刀を放てるのだから、おそらく僕の身体はゲーム由来の能力を得ているはず。

 大量の所持金から考えるに、一つのキャラではなく作ったキャラ全ての能力を統合されている可能性があった。

 僕のやっていたゲームでは、一つのキャラで持てる最大金額は四十億程度だったはずだ。

 それが四キャラ存在し、他のキャラは所持金を控えめにしていたので、総額にするとおよそ一七二億になる。


「実はちょっと試してみたいこともあるし」

「あの、あまり変なことは……」

「大丈夫大丈夫、きっと大丈夫」


 ぱたぱたと手を振る僕を、怪訝そうな目で見るミィス。

 それよりももう一つ、僕には気にかかることがあった。


「それより、この小屋にお風呂はあるかな? なんだか生臭くって」

「あー、ゴブリンの返り血とかでドロドロでしたから。一応できる限り拭き取ったんですけど」

「それでかぁ。体臭だったら嫌だなって思ってた」

「それは無いですよ。むしろいい匂いがしましたし」


 そう言えば、ミィスは僕にしがみついて寝てたっけ。臭くなかったのかな?


「ゴホン。お風呂は無いですけど大きめのたらいがあるから、それでお湯に浸かることはできますよ」

「お、それいいね。お願いできる?」

「はい、ちょっと待ってくださいね」


 ミィスは大きな布を取り出し、土間のところに敷いた。

 そこに大きなたらいを運んできて上に置く。

 これで水がこぼれても床が汚れることはないし、湯から上がった時に足が汚れることも無い。

 そして腰に巻いていたウェストポーチを逆さにして。水を大量に流し込んでいく。

 流れ込む水の容量は明らかに鞄の容量を超えていた。


「それ、凄いね」

「え? ああ、収納鞄ですか。わりとありふれた魔道具ですよ?」

「そうなんだ」

「それよりシキメさんの収納魔法の方が凄いですよ。さっき金貨を取り出したやつ」

「あー、あれね……」


 あれは魔法ではなくインベントリーのスキルなんだけど、ここは黙っておこう。

 どうやら収納魔法とやらが普及している影響で、僕のインベントリーを変に思わなかったらしい。

 ミィスは続いて小屋の隅にあった赤い小石を取り上げると、それをたらいの中の水に落とす。

 しばらくすると、こぽこぽと水が沸騰し始め、湯が沸き始めた。


「その石は?」

「これですか? これは発火石です。本来は火を熾すために使うんですけどね」

「へぇ?」

「水の中に入れると、火が出ない代わりにお湯を沸かせるんですよ」

「ふぅん……便利だね」

「ええ。生活に必須の道具です」


 日本ではガスや電気でお湯を沸かせるが、この世界ではこの石でお湯を沸かすのが定番なのだろうと納得する。

 お湯が沸いたようなので、僕は服を脱ぎ捨て、さっそく身体を洗うことにした。

 どうにも生臭さが鼻に突き、我慢できなかったからだ。

 それを見て、慌てたようにミィスが背を向ける。


「それじゃボクは、お風呂から上がるまで外に出ていますので」

「なにいってるの。どうせなら一緒に入ろう?」


 こんな美少女と一緒に入れる機会を逃すなんて、もったいない。

 そんな下心も込みで、僕は彼女を誘ってみた。

 しかし彼女は背中を向けたまま、蟹のように横に歩いて玄関に向かおうとする。


「おおお、お気になさらず!」

「そうはいくかー! こうなったら是が非でも一緒に入ってもらうからね」

「ひ、ひやぁ!?」


 悲鳴を上げるミィスのズボンに僕はしがみついて逃亡を阻止する。

 彼女は必死でそれを押さえて抵抗するが、全裸になった僕の身体能力は、彼女のそれを遥かに凌駕している。

 逃げ切れようはずがなかった。


「ひゃああぁぁぁ!」


 ついに抵抗虚しくずるりと引き下げられる彼女のズボン。

 元々が寝間着用だっただけに、ゆったりとした仕立てだった。なので、あっさりと引きずりおろすことができた。

 問題は、そこから現れた巨大なナニかだ。

 ずるんと、いやボロンと零れ落ちた棒状の肉塊は、僕にとって見慣れた代物だった。

 唯一違うとすれば、そのサイズ。

 すでに大人と変わらぬサイズ、というか大人以上。太股の半ばまであるそれは、その外見にそぐわぬ威容を誇っていた。


「ミィス……君、男だったんだね……」

「う、うわぁぁぁぁぁぁん!!」


 僕は呆然とそう呟くしかできなかったのだった。

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