第4話 TS少女と男の娘
視界を埋め尽くすほどの小人の数。
それが僕に飛び掛かり、服を剥ぎ取っていく。そして足を押し開き、股間に異物感を覚えたところで、僕は目を覚ました。
「く、来る! 雑魚が!?」
跳ね起きた俺は夢の中の小人を迎撃するために拳を突き出した。
しかしもちろんそこに小人の姿はなく、代わりにコロンと横に転がった少女の姿があった。
「あ、あれ?」
「うーん……むにゅう……」
ゆったりとした半ズボン状の寝間着とシャツを着て、おへそを丸出しにして眠る姿は無防備極まりない。
僕が男のままだったら、このままお持ち帰りしてもおかしくはない。
というか、状況的にお持ち帰りされたのは僕の方か?
少女は肩の下まで金髪を伸ばした非常に整った顔つきをしており、まだ幼い年齢に見える。
そんな子供がなぜ僕の隣で寝ているのか、少しばかり疑問に思う。
前の姿のままだったら、確実に事案である。
「えーっと……」
「んにゅ? あ、目が覚めたんですか」
少女は目をこすりながら目を覚まし、こちらを確認するとそう言ってきた。
「君が僕を助けてくれたの?」
とりあえず聞きたいことはたくさんあるが、まずはこれを聞いておかねばなるまい。
「あ、はい。ボクたちはゴブリンの大繁殖を偵察に行って、そこで」
「ゴブリン……あれがゴブリンだったのか」
ファンタジーの定番であり、有名な雑魚であり、最近ではエロモンスターとしてオークを凌ぐ人気を持つ。それがゴブリンである。
そんな群れに襲われて無事だったことに、改めて安堵の息を吐いた。
「あの、ボクも聞きたいことがあるのですが?」
「うん、なに?」
この子、可愛い顔してボクっ子なのか。属性盛ってるなぁ。
「ゴブリンが全滅していたんだけど、なぜか分かりますか?」
「ゴブリン? ああ、あの小人ね。あれは僕がやっつけたんだよ。ビシビシーってね」
年上の威厳を見せるべく、拳をビュッと突き出して見せる。
しかしその鋭さは、ゴブリンどもを相手にした時よりも遥かに鈍かった。
というか、ブンという風切り音すら鳴らないレベルの鈍さだ。
「なんで?」
「あはは、冗談はそれくらいにして」
「いや、冗談じゃないんだけど……そうだ、僕の名前は式目風弥っていうんだ。君は」
自己紹介を忘れていたことを思い出し、少女に名前を聞いてみる。
彼女は警戒心が無いのか、ふわっと笑うと名乗り返してくれた。
「あ、ボクの名前はミィスです。お姉さんはシキメ・フーヤさん? 名字持ちなんですね」
「別に貴族とかってわけじゃないけどね。故郷ではみんな名字を持ってるよ」
「そうなんだ?」
なんだか、彼女の発音が微妙に違う気がするが、それはまぁ置いておこう。
僕の動きが唐突に悪くなったのは、一つ心当たりがあった。
それは明らかに地球ではないこの世界に来た時に聞いた声にあった、『無装備特典』というやつだ。
おそらくはなにも装備していない時に限り、大幅に能力が向上するスキル。
これは僕が長年やってきたレトロゲームにあった、忍者という職業のスキルだ。
「あの時、服を剥ぎ取られたことで『無装備』状態になって、スキルが発動した?」
「どうかしたんです?」
「あー、いや、気にしないで」
この状況はよくあるファンタジー小説にある『異世界転生』に近い。
僕は天井が崩れ落ちるという状況に会い、死亡し、この世界へとやってきた可能性がある?
「いや、そんなマンガじゃあるまいし」
とはいえ、この状況は科学的なものでは説明がつかない。
ミィスという少女も、明らかに海外の人の外見なのに、日本語を話している。
いや、口元の動きが微妙にずれがあることから、謎の翻訳が成されているのかもしれない。
「それより僕を助けてくれたのに、お礼を言ってなかったね。ありがとう。今は言葉以外は何も返せないけど」
「そんなことないですよ。ボクが見つけたわけでもないですし」
「そうなの?」
「はい。見つけたのはギブソンさんで、ボクはついて行っただけで。あ、シキメさんがボクの家にいるのは、ギブソンさんも独り身だからで」
「そのギブソンさんって、結構いい歳の男の人?」
「はい」
なるほど、いい歳の男性の小屋に放り込むわけにはいかないから、幼い少女の部屋に押し込んだという訳か。
それにしても、なぜ一緒に寝ていたのか……と疑問に思って周囲を見回して、その原因に思い当たった。
この部屋……というか、小屋。ベッドが一つしかない。
これくらいの年頃の少女だと、他者と寝ることにも拒絶感は少ないだろう。
小屋は真ん中に囲炉裏があるだけの山小屋みたいなつくりになっている。他にはベッドとクローゼットが一つずつあるだけの粗末な小屋だ。
こんな幼い少女を一人で住まわせているなんて、少しばかり可哀想に思える。
「あの、お父さんかお母さんは?」
「両方ともいません、母は記憶に無くって、父は三年前に」
「あっ、ゴメン」
考えてみれば、赤の他人を引っ張り込んでいるのに、他に人が居ないという状況から察するべきだったかもしれない。
「それより、お姉さんはどこから来たの? 無事を知らせないと」
「あー、僕はすっごく遠いところだから、連絡は難しいかも」
なにせ、どう考えても世界が違う。地球にはゴブリンなんて実在しなかったし。
いや、おとぎ話の中では存在したけど、確認はされていない。それが百匹単位で生息する場所なんて、地球にはない。
だからここは、異世界で間違いないのだろう。
「あ、そうだ……ステータスオープン、とか!」
異世界といえばステータス、そう考えた僕は深く考えずにそう口にしてみた。
しかし何も起きない。
「うーん、じゃあインベントリーとか?」
ステータスには反応が無かったが、こちらには反応があった。
目の前に板状の表示が出現し、そこには大量のアイテムが収められていた。
そして僕には、その名称に見覚えがあった。
「これ、あの携帯ゲームの?」
武器の名前などから携帯ゲームのRPGの装備と推測できるものが、そこには大量に収められていた。
そしてなにより、大量のゲーム内貨幣も。
「な、なんだ、これ……えっと一枚だけ」
ゲーム内にあった貨幣を一枚呼び出し、ミィスに見せる。
「ねぇ、ミィス。これってお礼になるかな?」
「うわ、金貨!?」
「結構価値が高い?」
「うん。新人の職人のお給料が、これ二枚くらいだよ」
「ええ……」
新人の職人の給料が二十万と推測すると、金貨一枚十万円の価値と計算できる。
そして僕のインベントリーの中にはその金貨がなんと……一七二億枚も収まっていたのだ。
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