ボトルシップ 宅急便 エンドロール

 海の向こう側から船に乗って運ばれてきた荷物を、無事にそれぞれの家に届ける。その仕事に誇りを持って、日々、勤勉に働いていた男に、荷物の届け先の一つでしかない家に住む女は、恋をした。

 女は男に会うために、宅配便を何度も頼んだ。疑うことなく厭うことなく、晴れの日も雨の日も荷物を持ってきて、爽やかな笑顔を浮かべて去っていく姿に、大きくなる恋心と罪悪感。女は思い悩む。また、女の心を表すかのように、頻繁に届く荷物は部屋を圧迫し、女の生活は荒廃していく。その変化は男にも伝わった。心配気な男の問いかけに、女は全てを失う覚悟で全てを告白する。

 そして、失う。

 そういうお話の、エンドロールの後で、女は一人、浜辺を歩いていた。

 その手にはボトルシップがある。今のところ、男に届けてもらったもので最新であり、ひょっとすると最後になるかもしれない品だった。

 インテリアとしての品ではあるが、実のところ、女の趣味ではなかった。精緻な組み立ては見事なものではあるが、本来、海という広大な場所を進むものが、狭いボトルの中に閉じ込められている様は、見ていると息苦しくなる。――自分のようだ、とも思う。この小さな島の、小さな家の、荷物で狭くなった空間に、閉じこもっている。

 さらに、ボトルシップがそれで完成であり、これ以上手の加えようがないのと同様に、自分も「終わり」だった。ついさっき、エンドロールまでもが終わったのだ。役者の名前から監督の名前まで、全てが流れ終えた。もはや変化は望めない。

 いっそボトルシップだけでもぶち壊してしまおうと思って出てきたが、これを壊してしまったら、自分だけが変わりのない現実の中に取り残されてしまいそうにも思えてきて、出来ないでいた。

 浜辺には誰もいない。当然、宅配便の彼が追いかけてくるようなこともない。

 波が寄せて返す。

 観客は帰ってしまった。

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