専門 思う壺 ブログ

 中学生の頃、夜寝る前に親に隠れて、ネットサーフィンをするのにはまっていた。好奇心の強い方だから、見るジャンルは多岐に渡っていた。中学生らしくエロ動画やエロ画像のまとめやオカルティックな怪しいサイトから、ちゃちなデザインながらも専門知識が詳細に書かれた誰かの個人ブログまで。

 成績の低下に連れて親からの監視は強くなり、高校受験をするに当たって自身も危機感を覚えて、その趣味は下火になった。だが、とりわけ印象的なサイトやブログはブックマークをしてあった。例えば約五年間夢日記を書いているブログ、どこの国にいるんだという見た目をした昆虫の写真を解説もなくただ載せ続けているサイト、自分で考えたらしい架空の国の架空の法律を解説しているサイト、地震などで崩れた本棚の写真を収集しているサイトなんかを。

 そのうちの一つ、医学を専門としている大学生(院生?)が運営していると思しきブログを、高校生になって、ふと、開いた。

 医学を専門にしていると言っても、記事の内容は、ほとんど普通の大学生らしい内容だ。ゼミの打ち上げがあったとか、アルバイトが大変だとか、今日は何を食べたとか。ただ、どことなくその文体が、体に馴染んだ。たまにブログにコメントがついていることがあったが、それも何となく馴染みが良かった。ブログ主の直接の知り合いなのか、それとも類は友を呼ぶという奴なのかは分からないけれど。

 久しぶりに開いても、その空気感は変わっていなかった。見ていない間に更新されたブログをさかのぼってみても、ああ、と軽く安堵の息を漏らしてしまうくらいに、以前と同じ雰囲気が保たれている。自分の方は、高校生になってからそれなりに苦労したりもあったので、その変化のなさが嬉しくもあった。当たり前だけれど、自分自身や周囲の環境がどれだけ変わっても、画面の向こうには関係がない。

 そう思っていたのだが、ずっとさかのぼっていくと、ある時期だけ少し様子が違っていることに気がついた。

 ブログの内容自体は変わりないのだが、コメント欄に異質な人物がいた。ハンドルネームは「rht」。

 はっきり言えば、陰謀論っぽい――具体的には「こんなことをしてはいけません。あいつの思う壺です」「あなたは見張られています。気づいてください」「気をつけて」といったコメントを、rhtはしていた。

 そして、rhtがコメントしていたのは、どうやら一時期のことだったようだ。最近のブログにはついていなかった。全てを確認した訳ではないが、恐らくは自分が高校受験に集中し始めた時期から、高校に入学するまで、つまり自分と入れ替わりのようにコメントをつけていたようだ。

 少しだけ思い出を汚されたような、そんな気分で、怪しいコメントを眺める。ブログ主も他のコメントも、全くその怪しいコメントについて触れていないのが幸いと言えば幸いではあったけれど、それで納得がいくものでもない。

 rhtは一体、どういうつもりで、こんなコメントをしたのだろう。そもそもどうやってこのブログに辿り着いたのだろう。こんなことを言うのもどうかとは思うが、このブログは人気ブログではない。ブログ主の知人なのか、それとも何か、この人独特の「センサー」のようなものに引っかかってしまったのか。

 不快感を覚えながらも見ているうち、コメントがついた最初の記事を見ればきっかけが分かるかも知れないと思いついて、さかのぼっていく。根気が必要な作業ではあったが、あまり真剣な気持ちではなかった。とにかくただ暇だっただけ。

 その作業の末に、ある写真に辿り着く。

 写真には「何だろうこれ」という言葉が付記されていた。同じ言葉が自分の胸にも浮かんだ。

 持ち前の好奇心がむくりと起き上がる。

 その写真をダウンロードして、画像検索にかけてみた。

 検索結果には、似たような写真がずらりと並んだ。ざっとリンクを見るとどうやら、どれも、異なるサイトの異なるページのようだった。

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