拙者 塩コショウ 思考回路

「最近、ちょっと調子悪いんだよねー。何となくキレが悪いって言うか。ちょっと誰か見てくれない?」

「どうせまた目詰まりじゃないのか。つまようじのところへ行ったらどうだ」

「ちょっと、しょうゆ。どうせって何よ」

「あぁあぁ、ほら、細かい。ささいな言葉に、目くじらを立てるなよ。そうやってすぐ誰にでも突っかかるから、目詰まりするんだ」「最近、ちょっと調子悪いんだよねー。何となくキレが悪いって言うか。ちょっと誰か見てくれない?」

「どうせまた目詰まりじゃないのか。つまようじのところへ行ったらどうだ」

「ちょっと、しょうゆ。どうせって何よ」

「あぁあぁ、ほら、細かい。ささいな言葉に、目くじらを立てるなよ。そうやってすぐ誰にでも突っかかるから、目詰まりするんだ」

「しょうゆさん。横からで失礼しますが、ささいな言葉こそ大切にしなければなりませんよ。普段使う言葉から、思考回路は培われていくのです」

「どんな言葉を使おうが、本質には変わりないだろ。しょうゆも味噌も、元は大豆だ」

「そのことわざの真の意味は、たとえ元が同じ環境であっても、誰でも変わることができるという意味です」

「そうは言っても、今から、言葉づかいを変え、一人称を拙者などと変えたところで、しょうゆは味噌にはなれないだろうが。加工段階はもう過ぎたんだから、先生みたいに言ってくんじゃねぇよ」

「そこ、喧嘩しないで。うるさい。静かにして」

「塩! ねぇ、ちょっと見てくれない? 容器の底に固まっていたりしない?」

「嫌」

「はぁ……相変わらずの塩対応。仕方ない、つまようじのところに行こうかな……」

「塩コショウ、あいにくだけれど、つまようじは今は人員不足だそうよ。住人にバレたらまずいってことで、休業中ですって」

「え、そうなの、砂糖? 面倒くさ……。ちなみに、人員不足ってあと何本くらい?」

「十本ですって」

「それくらいだったら、次のストック開けちゃえばいいのに」

「この家の人って、面倒くさがりですよね……」

「急に何、アンタ。見ない顔だけど」

「からしです。僕、あの人が自炊を始めたばかりの頃に買われたんですが、使いづらかったのか、すぐにお役御免になってしまって……。それならそれで捨てればいいのにそのままにされて、今では完全に忘れ去られてしまったのか、賞味期限も切れてしまい……」

「うわ、本当だ。賞味期限、一年も前じゃない」

「せめて捨ててもらえないかと思い、最近何とか、調味料入れの底から這い上がってきたんです。気づいてもらえればいいんですが……」

「無理無理。俺は偶然、一度使われた後に調味料入れに戻されず、ずっと見えるところに立ってるけど、使われもしなければ、捨てられる気配もない」

「わさびさん……」

「買われたばかりの頃は鮮やかな緑色だったはずなのに、近頃じゃ茶色くなってきた。臭いもしてきたような気がする。スペース的にも邪魔になってるだろうし、俺も早く立ち去りたいんだが、意識の死角になっちまってるのかな……」

「邪魔なんて、そんなことねぇよ」

「しょうゆ……」

「口うるさい味噌よりも、お前と話している時の方が、俺は好きだ。食卓でつるむ機会は少なくなっても、俺たちはコンビだ。またみりんや料理酒になんか言われたんだろうが、気にすることはない」

「……一軍のお前に、三軍どころか四軍である俺の気持ちなんか、分かるもんかっ!」

「わさび!」

「しょうゆ、追いかけなさい!」

「味噌。でも、重量のある俺じゃあいつには追いつけない」

「大丈夫です。こちらに先日、サラダ油をこぼした時の跡が、まだ残っています!」


「結局、私の調子の悪さはどうしたらいいの?」

「次に使われる時を待ちなさい」

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