暴飲暴食 滅ぼす 問題解決
例えば、上司のミスを押し付けられた日。
例えば、彼氏に別れを告げられた夜。
キミヨは近所にある、値段の割に美味しい料理を提供することで度々インターネット2で話題になるファミリーレストランで、ひたすらに飲み、食べまくることにしていた。
その日は平日で、夜も遅かったため、客はまばらだった。一人だったがボックス席に通される。荷物を隣に置いて、メニューを開き、さっと注文を済ませる。料理もさっと運ばれて来た。普段は当然のことのように受け取っているサービスだけれど、一日、滞り滞りで疲れた身にしてみると、この滞りのなさが嬉しい。
早速、一番好きなサラダに手をつけた。
「それにしても最近さ、物騒なニュース多いよね。これとかさ、酷くない?」
料理を食べ進め、少し物足りないし、この後最後にデザートも食べようかと考え始めた頃。
後ろのテーブルの会話が、ふと耳についた。ことんとテーブルに何か置かれた音がする。ニュースサイトでも見せているのだろう。
「うわ……これは、酷いですね」
声からすると、後ろにいるのは若い男女らしい。カップルだろうかと何となく思う。どことなく男の方からは、口ぶりから意識の高そうな感じがにじみ出ていた。元彼を思い出してしまう。嫌な気分になったが、彼らのせいではなく、聞き耳を立てている自分のせいだ。
あまり聞かないようにしようと思いつつ、パスタを頬張る。
「人間って、滅ぼす訳にはいかないんですか?」
だが、女の言葉が聞こえて来た。
すごいことを言う女だ。SNSなどではたまに、極論を言って議論をフイにして、他人を怒らせて気持ち良くなるふざけた輩も見かけるが、その女にふざけた調子はなかった。せっかく温かい料理を食べているのに、内蔵が冷えるような感覚があった。
「こう、そもそもの話になってしまうんですが、私たちの目的って、人間の繁栄ではないじゃないですか。人間の繁栄はあくまで手段の一つ……ですよね?」
「そうだね」
「その上、人間の繁栄は、手段としてもあまり良くないということが、研究で分かりつつある……と聞いたことがあるんです。聞きかじりでしかなくて恐縮なんですが……。だったら、一度人間を滅ぼすのも、ありなんじゃないかと思っちゃうんですよね。特に、そういうニュースを見ると」
「最新の研究にも目を通しているなんて、勉強熱心だね」
「あ、いえ、偶然記事を見ただけで」
「偶然でも意識的でも、細かい日々の積み重ねが大事なんだから」
しばらく謙遜と褒めの応酬が続く。カップルと言うよりは、意識の高い新人と先輩という雰囲気だなと思い直した。
「僕は直接その記事を読んだ訳ではないから、個人的な意見になってしまうんだけど。確かに、人間の滅亡は検討に値する、選択肢の一つではあると思う。実は、チトーさんともそういう話をしたことがあってさ」
「チトーさんって、アースコーポレーションの?」
「うん。うちの部署でも、これから議論されていくんじゃないかな。……けれど、僕は反対かな」
「何でですか?」
「人間が問題を起こして、それの対処する度に、滅ぼしちまえとは僕も思ったりはするんだけど。この仕事をやっていると、何か壊して解決することって、案外にないことに気づくんだ。やっぱり地道にやっていくしかないんだな、と。大きな改革って言うのは、結局、直接の問題解決にはならないけれど景気は良くてすっきりする。暴飲暴食のようなものだ」
当てつけか、と後ろを振り向きかけたが、さすがに堪えた。
それにしても、この会話の内容だと、役所の地球の管理をしている部署の人間だろうか。仕事について、こんな誰がいるとも知れないファミリーレストランで話すなど、少し不用心ではないか。
憂さ晴らしも兼ねて、クレームとか入れてやろうかな。キミヨはデザートを選びながら思った。
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