下僕 名推理 可燃ゴミ
「またか……」
朝もやの中、探偵は独り言つ。目の前にはゴミの山、そして死体。
探偵は両手に持ったゴミ袋をゴミ山に放ってから死体を検分する。まるで雪原に大の字を刻まんとするかのように腕を広げて、ゴミ山に突っ伏している。泥に塗れたワイシャツに、下は何ら特徴のない黒のスラックス。
「さて、外傷はあるかなーっと」
嬉々として、探偵は死体をじろじろと見回して、それから思い出して死体の手首に触れた。
探偵は一転肩を落とす。
「何だ、生きてんじゃねぇか。またかよ」
そしてすぐにスマートフォンを取り出して電話をかける。呼び出し音が切れた途端に「下僕、すぐ来い! ……その書類は後でいい!」と声をかけてぷちんと切った。
少しして、朝もやも晴れてきた頃、下僕が探偵の元に駆けて来た。じとっと探偵を見て、その足元にいる「死体」――もとい気を失っている男を見やる。
「何ですか?」
「お前の仲間じゃないか?」
下僕は倒れている男の顔を覗き込み、首を振る。
「覚えがありませんね」
「そりゃそうだろ。記憶喪失なんだから。でもお前の時と状況が全く同じだ。何か関係があるかも知れない」
「状況が同じってだけで?」
「ゴミ捨て場に頭突っ込んで男が倒れているという状況。繁華街ならいざ知らず、この辺りじゃそうそうない。それが二度目だ。全くの無関係という可能性もあるが、関係があるという可能性の方が高い」
「いや……そうですかね……」
下僕は疑わしそうに倒れている男を見下ろす。
「どうだ。覚えはなくても、思い出すこととかないのかよ」
「そう言われましても、自分が倒れてた時の状況なんて知らないし。目が覚めたら事務所のソファでしたから」
やれやれと探偵は大仰に呟いた。
「もっと考えろ! 自分のことだろ」
「ぶっちゃけ自分とかどうでもいいっていうか、それより今日提出の書類片付けなきゃヤベェっつーか」
「書類なんて待たせておけ!」
「じゃあ俺が考えとくんで、アンタ書類やってくださいよ」
「何でだよ! せっかくの推理する機会かも知れないのに、何で探偵の俺が抜けなきゃいけないんだ!」
「……じゃあさっさと推理して、さっさと事務所戻りましょう」
下僕の言葉は投げやりだったが、妙に素直な探偵は素直にウンウン考え始めた。ぐるりとゴミ捨て場の周りを回ってみたり、倒れている男の顔をまじまじと見てみたり。
そして数分推理した結果。
「お前とこいつは、同じ、可燃ごみの日に倒れている! ということは、可燃ごみの日にだけ死体……じゃなかった男を捨てる時間がある奴が犯人! つまり火曜日が定休日になっている、あそこの喫茶店の店主が犯人だ!」
「火曜日の朝に捨てるのなら、月曜日定休の方が都合良くないですか?」
「じゃあ月曜定休の店の誰か!」
「おぉ~名推理~。パチパチパチ。解決ですね。じゃあ俺事務所戻ります」
「待って!」
「名推理でした誰がいくら考えたってこれ以上の推理はありません帰ります」
「いやいやいや俺の本気はこんなもんじゃねぇから!」
「ちょっと引っ張らんといてください。裾伸びちゃうでしょ」
ゴミ捨て場で騒ぐ二人を遠巻きに眺める近所の人々。下僕は注目を集め始めていることに気がついて、おもちゃ売り場の子供のように駄々をこねる探偵の脳天に手刀を下ろした。
「帰りますよ」
「いって~!」
その時、ゴミ捨て場に倒れていた男が身動ぎした。「うぅ……」と呻いて、ゴミ山を崩しながら起き上がる。探偵も男が気がついたのに気がついて目をやった。未知の生物が現れたのを見るような無言の一瞬。二人に見つめられた男は少し怯えた顔をして、きょろきょろと辺りを見回し、一言。
「あの……酒、飲み過ぎちゃって。荷物見てません?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます