第10話

「そうか……ふふ。これは面白くなってきたな」

 魔女は楽しげに囁く。

「あの子にそんな過去があったなんて……信じられない……」

 助けられた日のことを思い出しているのかダーウェントは神妙な面持ちで呟いた。 それを聞いた魔女が背中を押そうと助言を与える。魔女がここまで人間に肩入れするのは珍しいことだった。

「君が思っているよりも彼女はむごたらしい過去を背負っている。優しくしてやるといい」

 魔女の声音こわねは、とても柔らかなものであった。

 その言葉を聞いて、ダーウェントは力強く頷いた。

「僕、ちょっと行ってきます。あの、美味しい食事やたくさんの話をありがとうございました。僕は、強い男になってみせます」

 少し前まで気弱だった少年が、チークムーンの元へ向かおう立ち上がる。

 不適に笑うその表情は、彼の母親が良く見せたものに瓜二つで、魔女の胸を締め付けた。だけどそこには、切なさの中にも確かな温もりが存在した。

 魔女は、初めて安らぎにも似た感情を人との間に感じていた。それが、幸福という人間にとって最も重要なものだと言うことを魔女は理解することが出来なかった。それでも、魔女の中には確かな温もりが灯った。


 小さな奇跡が、世界を大きく変え始めていた。


[幕間の章(2) 完]

 

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