第8話

 母親を知っているという魔女に、ダーウェントも興味が沸く。

「あの、母とは友達だったんですか?」

 その問いに魔女はどう答えるか迷った。

 何故なら魔女は彼女との関係性に言葉で定義したことがなかった。するつもりもなかったのだ。二人の関係は、言葉の枠に落とし込める程単純なものではなかった。

 彼の母親との出会いもまた、魔女の気まぐれによるものであった。

 彼女はダーウェントと同じように魔法が使えなかったのである。小さかった彼女は、ダーウェントのように力を欲していた。しかし彼女に戦闘能力はなく強気な性格とは裏腹にとても泣き虫な女の子だった。その彼女に、魔女は試練を与え彼女はそれを乗り越えて光の大精霊と契約を交わした。古玉はその大精霊の依り代として魔女が与えた物であった。

 その後、大精霊を制御できるまでの間一緒に旅をしていたこともあった。友達と言っても差し支えはないだろう。その彼女が亡くなっていたことに魔女の中の何かが揺らいでいた。そのせいで、ダーウェントの話も途中から頭に入ってこなくなってしまったのだ。

「君の母イルイレースとは一緒に旅をしていたこともあるんだ」

「え? お姉さんいくつなんですか?」

 自分が若い女の姿に変わっていることを忘れていた魔女は少年の質問に思わず笑ってしまった。

「これは私の失態だな。特別に私の秘密を教えてあげよう。これは仮初の姿なのさ。本当は別の姿をしているんだ」

 魔女の言葉に驚き、わずかに変わった魔女の口調にダーウェントは気づいていない。

「え? だけどそれって……」

 ダーウェントはキョロキョロと周囲を見回す。店内には離れたテーブルに一組の客がいた。

「そう、姿を魔法で変えることは法律で禁止されている。それに町のいたるところに魔法を強制的に解く魔道具が設置されている。だったらなんで私は姿を変えたままでいられると思う?」

 ダーウェントは必死に考えてみるが答えは出なかった。

「わかりません。国の特別な役職で特殊な魔道具を携帯しているから、とかですか?」

 魔法や魔道具を無力化するような装置があるとしたらたくさんの犯罪が生まれてしまうだろうなと魔女は想像する。

「残念ながらそんな便利なものはこの世界に存在しないよ。正解は、私が使っているのは魔法ではないからさ。それがなんなのかは、これからゆっくり考えていけばいいさ。そうだな、君も母親のように旅に出るといい」

 魔女の提示したヒントに思考をめぐらせていたダーウェントは、旅という言葉にわずかに反応を示した。

「旅、ですか。でも僕が1人で旅しても弱いしすぐにお金を盗られたりしそうですね」

 ダーウェントは自嘲ぎみに弱音をこぼす。

「別に1人で行く必要はないさ。そうだ、私の知り合いにあと5年もすると旅に出るであろう女の子がいるんだ。その子と仲良くなるといい。君が成長しその旅に同行すれば私も安心というものだ」

 ダーウェントは魔女の言葉に疑問を抱く。

「あの、その女の子を紹介してくれるってことですか? 今の言い方だと僕が彼女と友達になるところから始めないといけないような風に聞こえたんですが……」

 ニヤリと笑って魔女は答える。

「良くわかってるじゃないか。そうと決まれば善は急げだな。もう少しすれば下校が始まる頃だ。食事を取ったら校門へ向かおうか。そうだな、君の好きな子もそこで教えてもらうとしよう。さっきより近くで見れるじゃないか、良かったな」

 ゲラゲラと笑う魔女にダーウェントはぐったりと項垂れた。

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