第6話

 ダーウェントは頭の中で話を整理しているように真剣な表情で押し黙る。そこへ、店主が飲み物を持って現れた。

「はい、どうぞ。こちらコーヒーとリンゴ果汁ね。それから、サービスのリンゴだよ」

 店主は挽きたてのコーヒーと絞りたてのリンゴ果汁を2人の前に置くと続けてリンゴを盛り付けた皿をテーブルに置く。

「いい香りね。コーヒーが自分でも入れられたらいいのに。へーこれがリンゴ。実は私もリンゴは初めてなの、ありがとう」

 魔女はコーヒーの香りを満喫すると綺麗に皿に並ぶリンゴへ興味を示した。

「あ、ありがとうございます」

 ダーウェントも続けて感謝を告げた。

「それは良かった。ではごゆっくり」

 笑顔で対応する店主に、魔女は好感を抱く。

 人間は、特に接客を伴う仕事をしている人間は愛想がいいのだが、この店の店主には仕事だからという感じが全くしなかった。人の温かさを強く感じさせる表情、言葉遣い、話し方、その全てに優しさが滲み出しているように感じるのである。

 去る店主に魔女は声をかけた。

「あ、ちょっといいかしら? 食事は少し待ってもらえる? 少し長話になるから終わったら声をかけるわ。そうしたら持ってきてちょうだい」

 背を向けた店主の纏う空気がほんの一瞬変わったことに魔女だけが気付く。わずかな間を空け店主は振り返った。

「ええ、もちろん構いませんよ。では私は奥に下がりますので終わりましたら呼び鈴で知らせて下さい」

 空気を歪ませ、違和感を残し店主は去っていく。

 端から見るとなんの違和感もないやり取りであったのだろうが、空気のヒリつきとまではいかないものの店主の奥底には何かドス黒い何かがうごめいていた。

 しかし、魔女の思考を遮るようにダーウェントは語り始める。魔女は一度思考を手放し、店主の入れたコーヒーに口をつけ少年の言葉に耳を傾けた。

 香り立つコーヒーのとても優しい味わいに、人知れず魔女は懐疑心かいぎしんを強めた。

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