第4話
嵐が過ぎ去ったように、喚き散らした少年は力なく俯いた。
どうしたら強くなれるのかと少年は魔女に問い質した。その質問に対し、魔女はいくつもの答えを持ち合わせていた。
未だ顔を上げようとしない少年の肩に魔女の手が優しく触れた。
その瞬間、静電気のような衝撃が魔女にだけ生じる。
「これは……あなた、そうだったのね」
魔女は一方的な納得を静かにこぼす。そのわずかな囁きをダーウェントは逃さない。
だが、俯いた顔を上げることができず浮かんだ疑問を静かに飲み下した。
そのダーウェントに向け魔女は言葉をかけた。
「君は強くなりたいと言っていたが、君の言う強さとはなんだい?」
ハッとしてダーウェントは顔を上げるも、答えにつまり目を伏せた。それでも、なんとか自分の中にある答えを言葉にする。
「わからないけど……守られるだけじゃなくて、あの子を守れるだけの力が欲しいんです」
魔女はそんな彼を導こうと考える。魔女自身が導いてあげたいと心から思ったのだ。
「力にもいろんな形があるが、君が言うように魔法や剣や打撃戦では、君は誰よりも劣るのかもしれない。だが、君には光の加護があるようだ」
その言葉に再び少年の目は魔女と合う。
「え? それはどういう……」
「人間は、火水土風の4属性しか魔法を理解していない。ごく稀に、治癒魔法や強化魔法、弱体魔法を使える者がいるが、それを人は理解していないまま、特別な力と考え解き明かそうとはしていない。だがあれは光と闇の加護を持つ者の魔法なのさ。君には光の加護がある。つまり、回復や強化魔法を使える可能性があるということだ」
「だけど僕は魔法の学校を受験して、その、落ちました。僕には魔法の基礎知識がありません。それにこれからどうやって魔法を学べばよいのでしょうか?」
強さに憧れるだけあってその強さに貪欲な態度に魔女は少し楽しくなる。
「焦るな少年。普通の魔法が大気中に存在する自然の力を借りて発動するのに対し光と闇の魔法は加護により内なる精神エネルギーのようなものを媒介に発動するんだ。それ故難しい術式や概念の理解は不要だ。まぁあるに越した事はないが無くても問題はない。まずはイメージをすることだ。癒すイメージ、強化するイメージ、それらを次第によりリアルに繊細に想像することができれば、いずれ傷を癒したりすることはできるようになるだろう」
ダーウェントは魔女の言葉の全てを理解することが出来なかった。
「よりリアルに繊細にというのはどうすれば?」
「君の場合、人体の構造を理解することが近道と言えるかもしれない。医学関係の書物を調べてみるといいさ。骨格や筋繊維、内臓や血液がどう循環しているかなど、体の仕組みを理解し、欠損した箇所を補填するようなイメージができるようになるといいだろうね」
自分の補足に納得した様子を確認すると、魔女はさらに続けた。
「光と闇の魔法は貴重だし他人に聞いても理解されないだろう。自らその道を切り開くしかないのさ。困難しか待っていないと言っても過言ではないかもしれない。それでも、それが君の強くなるための道だ。進めるかい?」
その問いに、ダーウェントは力強く頷いた。その目には強い光が宿っていた。
「もちろんです。ありがとうございました。でも、どうしてこんなに親切にしてくれたんですか?」
「そんな気分だったから、かな」
微笑み答えた魔女は更に続けた。
「あぁそれからお礼はちゃんともらうよ」
「え!? 僕お金持ってないんですが……」
申し訳なさそうに話すダーウェントに魔女はニヤリと笑って答える。
「お金なんて要らないさ。君が守りたいと思っているその子のことを教えてくれるかい?」
その言葉が耳に届くと、少年は今まで自分が話していたことを思い返し顔を赤くする。
「わ、わかりました」
そう言ってダーウェントは恥ずかしそうに頬をかいた。
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