第4章 魔道具は誰がために

セロの独白

 おかしいってことは分かってるんだ。

 それでも、俺には金が必要なんだ。


 国からの開発依頼しかこれまで受けてはこなかったし、それを完成させたことは数えるほどしかない。その結果が、借金まみれの現状だ。


 若い女が個人で依頼をしてくるなんて間違いなく異常だ。ありえない異常なことなんだ。だけど俺にはもう、目の前のこの機会チャンスを掴むしかないんだ。


 もう、何日もろくな食事を取っていない。今すぐにでもこの金でアツアツの肉料理を限界まで胃に入れて、浴びるほど酒を飲みたいと心の底から思っている。


 それでも、すぐに契約書にサインをしなかったのは、目の前の現実感を付帯しない美しい女と、女が用意してきた大量の札束に、本能が警鐘を鳴らしたからだ。




 テーブル上に置かれたケースには綺麗に札束が並ぶ。それを提示した女が、セロの返事を待つために黙り込んでからどれくらいの時間がたったのだろうか。


 ペンを握る自分の手が小さく震えている。



 静まり返る店に、ゴクリと唾を飲む音が大きく響いたように感じた。

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