幕間の章 魔女の美学

理の外で眺める景色


 理を外れることにより人間と触れ合う機会が増えた魔女は、ある時期からいくつかのルールを自らに課していた。


 そのひとつが、魔女が魔女として人間と接触する場合を除き、魔術の一切を行使しないというものである。

 端的に換言してしまえば、人間として生きるということである。

 オーバーベルの延命魔術という例外は生じたが、魔女はルールに従い人々の日常に溶け込んでいった。


 それ故に、魔女はとある町の宿屋で1室を借り、その町に住む人々と同じように生活を営んでいた。ただし、同じ町にはひと月と居ることはない。これも、彼女が決めたルールの1つである。

 魔女は、住む場所を変える度に性別、年齢、口癖や性格まで姿形をコロコロと変え、移り行く季節のように気ままに過ごしていた。


 その町、その季節、その瞬間を、魔女は全身で感じ、喜怒哀楽を嗜むのである。


 この生活こそが、気まぐれな魔女の求める全てであり、いかに人間らしく生きて行けるかが魔女の掲げる美学であった。

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