遭遇(2)
「いきなりだが、ひとつ私と約束してくれ」
そう言ったのはすべてを知り、オーバーベルと同じ顔を持つ女だ。
「約束?」
「ああ。簡単な約束さ」
そう言った女は更に続ける。
「チークムーンを守れ。あんたが、その手で」
その言葉に、オーバーベルの魂が震えた。その理由を探しては見たが、すぐに答えは見つからなかった。
「なんで、私が?」
その疑問は、至極妥当なものであった。
オーバーベルとチークムーンが言葉を交わしたのはシャノンレールを含めた3人でじゃれ合ったあの日だけである。だからこそ、オーバーベルにはそこまで強く求められることが理解できなかった。しかしその一方でその言葉に胸が高鳴っていることに気付き、内心とても驚いていた。
そして女は静かに答えた。
「私の、大切な人だからだよ」
穏やかな声音に、オーバーベルはハッと息を飲む。
そして、目の前にいる女と魔女が自分に求めるチークムーンとの関係に、何か特別な意味があるのだと確信を得る。
「わかった。約束するよ」
短く答えたその声は、迷いなく、澄んだものだった。
その声音から心情を読み取った女は感謝の言葉に助言を添えた。
「ありがとう。焦らなくていい。いずれ、彼女は全てを君に打ち明けてくれる。その時感じることを忘れないように心に刻むんだ」
「チークムーンは何かを隠してるの?」
その問いに女は静かに首を横に振った。
「それは私が答えることではないし、私に聞くのは間違いだとは思わないかい?」
その通りだと、オーバーベルは自分の間違いと
「そうだね。ごめん」
素直に謝るオーバーベルは、自分が内面的に少しずつ成長していることに気付いていない。
非を認め謝ることは、
「君は強くなれる。それは私が保証する。だから早く守りたいと思えるものを見つけるといい。と言っても、もうそれが何なのか言ってしまったようなものだがね」
女は苦笑して最後の助言を送った。
「ありがとう。助かったよ。今回のこれは、魔女からの指示なの?」
「いや、これは完全な私の気まぐれさ。ただし、君が背負った使命の先に、今の私がいる。これ以上先は自分の目で確かめて来るといい。私もそうだったんだ。君もそうすべきだ」
時を超えて来た原因はどうやら例の男の殺害が関係しているようだ。
「時間だ。チークを頼んだよ」
そう言って彼女は立ち上がった。
オーバーベルは一度深く頭を下げ、彼女を見送った。
歩き方から左足に何か問題を抱えていることがうかがえる。それを聞くためだけに彼女を引き止めることに気後れしたオーバーベルは、抱いた疑問を飲み下す。
こうして二人のオーバーベルは約束を結び、別々の道を歩き始めた。それは、これから彼女が切り開く道であり、かつて彼女が刻んだ
時空を超えても消えることのない約束は、確かに今ここに結ばれた。
[第3章 完]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます