遭遇(1)

「お姉さんによろしく」

 チークムーンは確かにそう言ったはずだ。耳を疑うその言葉を、オーバーベルは思い出す。それは彼女に不可思議な違和感を芽生えさせた。何かが、おかしいと――。


 その夜、ベッドに横になると、再び魔女と夢の中で会うような気がした。チークムーンが発した姉という言葉から、オーバーベルは密かに魔女が動いていると考えていた。自分の考えが正しければ、おそらく今晩また例の真っ白な部屋に呼ばれるはずだ。そんなことを考えつつ、オーバーベルは目を閉じた。わずかな高揚も、薄れ行く意識に希釈されていく。そして間もなく、意識は完全に閉じた。



 夢のない眠りから覚めたオーバーベルは、まどろみながらも確かな違和感を抱く。その違和感が自分の考えが間違っていたことによるものだと分かり、ベッドから跳ね起きた。

 魔女がその姿を見せることはなかったのだ。

「嘘でしょ……じゃあなんだってのさ……」

 カーテンの向こうには薄暗い夜明けが広がっている。静寂が止めどない思考を後押しする。が、答えは出ないまま、混乱だけがゆっくりと肥大していった。


 オーバーベルは学校へ行く支度をし、朝食も取らず朝日も上らぬ静かな夜の淵へ飛び出した。

 玄関ドアを開けると、庭に置かれたベンチに知らない女が座っていた。その女の顔を見た途端、全てを理解した。そして女に問いかけた。

「あんたは、今いくつなんだ?」

「わかっちゃいたことだけど、初めましてでその質問はないでしょ。可愛げがないんだよあんたは」

 静寂を同じ2つの声が割いた。同じ顔をした2人は不適に笑い合う。

 2人の傍らに揺らめいていた蝶は引かれ合うように近づき、楽しそうに並んで飛んでいる。

 オーバーベルは返事もせず近づき、女の隣に空いたスペースに腰掛けた。

「で、どういうことなのか説明してくれる? オーバーベルさん」

「まったく……残念だが、詳しいことは説明できないんだ。それでも、君がこれからやらなければならないことを少しだけ話すことはできる。そのために私はここに来たんだ。まあ、感謝のひとつでもしてくれてもいんだがね? オーバーベル君」

 そう言ってニヤけたのもつかの間、声を低くしてこう続けた。

「真面目な話、こっちは少々厄介なことになってんだ。用件を伝えたら私は直ぐにここを離れる。時間がないんだ。質問は受け付けないし二度繰り返しはしないから良く聞いてくれ」

 そう言った彼女の瞳は、冗談を挟むような余地を与えてはくれず、オーバーベルは頷く他なかった。


 そして彼女は、自身にとっては経験であり、目の前の少女にとっては未来の話を語り始めた。

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