学舎の人気者[後編](1)
不思議な夢を経て、オーバーベルに初めての朝が来る。
傍らに揺らめく薄紫色をした蝶は、常にオーバーベルに寄り添う。
オーバーベルは夢で魔女から聞いた話を整理しながら食後のコーヒーに口をつけた。しばらくして状況整理を終え、今度はこれからのことを思案する。
はたして自分がどのようにしてチークムーンと接点を持っていくのか考えてみるが、想像すらもできなかった。それでも、なにか行動を起こさなくてはと落ち着かず、気づけばいつもよりかなり早く学校へと向かっていた。
到着し、門から見上げた
これまで彼女にとって学校というものは、
オーバーベルはこれから、その短い一生で[生きる]ということを痛いほどに知っていくのだ。生きるということは、関わり合うことであり、想い合うことであり、傷つけ合うことであると。なぜなら人間には感情があり、
だからこそ、魔女が言うように人間の成長は面白いのかもしれない――—。
教室に入りオーバーベルは自分よりも先に登校しているクラスメイトがいることに驚く。だが、その少女の名前すら自分は知らないことに戸惑い後悔する。自分がどんなに愚かな人間であるかを改めて痛感した。それでも、彼女はもう簡単に俯いたりはしない。
「おはよう」
自分の席に向かう途中、席で本を読む少女に自ら声をかけた。
挨拶をされた少女にはそれが意外だったようで、少し驚いたような反応を示す。そこにオーバーベルはぎこちない笑みを送ると少女は慌てて返事を返してきた。
「おおお、おはようございます!」
勢いよく立ち上がり姿勢を正して頭を下げる少女に今度はオーバーベルが
「あ、うん。そんなかしこまんなくて大丈夫だから」
「あ、あの、ありがとうございます。私なんかが声を掛けてもらえるなんて、幸せです」
少女の目は心酔していた。なにか妙な予感がして適当に会話を終わらせると自分の席へ逃げるように向かった。
その後も何故か彼女がチラチラと見てくるので、耐えられずオーバーベルは教室を出て中庭へと向かった。
中庭のベンチには、チークムーンが目を閉じ座っていた。瞑想か精神統一のような類の鍛錬に励んでいるように見て取れる。
声を掛けてよいものか悩んでいると、背後から声を掛けられた。
「あれね、たぶん寝てるよ」
振り返ると、体術科首席のシャノンレールがそこにいた。
「やあ、剣術科の有名人さん。今日はまた早いね。どうしたの? チークに用事かい?」
褐色の肌に短い金髪は反り立つように天へ向け逆立っている。声音は優しく、気さくに話しかける少年シャノンレールはオーバーベルのすぐ隣に立ち話しかけてきた。
「お、おはよう。用事って程のことでもないんだけどさ。あれ寝てるんだ?」
これまで話したことが無かったことと、異性という得体のしれない生き物にわずかな緊張を抱く。
「見てるとわかるさ。そろそろ船を漕ぎ始めるんだ。たまに
しばらく観察していると、言ったようにコクリコクリと頭が揺れ始めた。
「さて、起こしに行こうか」
「え? 起こしちゃうの? 悪くない?」
戸惑うオーバーベルにシャノンレールは提案する。
「アンタが起こすってのはどうだい? 起こしてやらないと授業が始まってもあのままなんだ。それでもいいのか?」
歯を見せニヤリと笑う少年はもうそのつもりらしい。
二人で傍まで歩いていくと、チークムーンは朝日を浴びて気持ちよさそうに眠っていた。
予想外にも程があるチークムーンとの初めての接触。それが、まさかこんなにも早く、こんな形で成されると思ってもいなかったオーバーベルは、目の前で寝息を立てる少女の肩に手を伸ばし揺すろうとする。なんと声をかけようかと考えていると、パシっと謎の音がした。
「んわぁ!? え? ん!? なんで!?」
ベンチの後方に回ったシャノンレールがチークムーンの頭を叩いてそのまましゃがみ、チークムーンの死角へと隠れたのである。その衝撃に驚き目を覚ましたチークムーンは目の前にいる意外な存在に更に驚き大きな声を上げた。
オーバーベルは状況処理に追われ、適切な対応を必死に考えた結果。
「お、おはようございます」
挨拶をした。
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