学舎の人気者[前編](3)
沈み行く空気に魔女が言葉を投じた。
「そこで俯くのは感心しないな。さっきまでの強気な君の方がまだ見ていられるよ。まぁ、どちらも[正しさ]という基準に当てはめてしまえば間違いでしかないのだけれどね」
ゆっくりと顔を上げた少女は、魔女を睨み付けた。
「うるさい。黙れ」
乱暴な言葉を吐き捨てるが魔女にはなんの効果を与えることもできない。
「それ以上はやめておきな。憐れだよ。見ていられない」
魔女から溢れた言葉にオーバーベルの心が深くえぐられた。
悔しさに歯を軋ませるのも一瞬で、オーバーベルの瞳に諦観の色が浮かぶ。そして悔しさが目頭に熱を灯す。
「なんなんだよアンタ……私にどうして欲しいんだよ……」
その言葉に、声音に、魔女は驚く。
本来のオーバーベルの実力は、チークムーンを遥かに上回っている。それは、魂を共有するパスカルブランチの影響もあるのだが、オーバーベルには素晴らしい才覚が備わっていたはずなのだ。
魔女は押し黙り考えていた。人間というものについて。
人間の持つ才能は努力により爆発的に伸びる。そう考えていた魔女であったが、それは間違っていたらしい。再会した目の前の少女を見る限り、魔女が期待する飛躍的な成長にはどうやら努力だけでは足りないようであった。環境や心的状況、またはなにか別の要素が複雑に絡み合い、人間は成長を遂げるのだろう。そう結論付けた魔女はオバーベルを見据える。
「どうしてほしい、か……そうだな、では君にはチークムーンと友達になってもらおうか。その代わり、この条件を飲めば私は君の力を引き出してあげよう。どうだろうか?」
魔女の言葉に少女は戸惑う。
それもそのはずだ。今まで断固として避けていた接触。それはオーバーベルには受け入れがたい条件だった。
プライドの高い少女には、難しい選択である。
「まったく……私がその自尊心と呼ぶにはちっぽけなそれを粉々に砕いてもいいのだが、先に私の話を聞いてもらうとしようか。そうすれば、君も納得して私の条件を受け入れられると思うんだがね。なんせ君は強くなる他ないのさ。それも、残された僅かな時間の中でね」
お決まりの不適な笑みを貼り付け、魔女は隣に座る少女を見つめる。
オーバーベルは言葉の意味を理解できず、魔女の言葉の先を待つしかなかった。
[つづく]
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