呪夜の真実[前編](3)

 レイリー=ミュートはその夜、不思議な夢を見た。


 気付くと真っ白な部屋に自分がいることに気付いたレイリーは、ここがどこなのか探るように周囲を見回す。

「真っ白……」

 呟いた感想に少女にとっては初めて聞く声が反応する。

「おや? もう来たのかい? 君は寝つきが良すぎやしないか? まるで泣き疲れた赤子のそれだな」

 魔女はクスクスと笑い更に続けた。

「今行く、そこに座って待っててくれ」

 パチンという音に呼応するように、二人掛けのソファーが突如真っ白な空間に出現する。しかし、レイリーは戸惑いその場に立ち尽くしていた。

「なんだ、立ったままでは疲れてしまうだろうに。さぁ座ろうか」

 レイリーは背後から聞こえる声に驚き振り返ると、真っ黒なドレスに身を包む魔女が立っていた。

 魔女はソファーに座り足を組むと、立ち尽くしたまま動こうとしないレイリーの方を見て首を傾げた。

「どうした? さぁこっちへおいで」

 そう言って魔女は隣の空席をポンポンと軽く叩いてレイリーを招いた。少女は言われるままにソファーに座った。そして、ずっと前から抱いていた疑問を口にした。

「これは、夢ですか?」

「最初の疑問がそれかい? まあ君が言うようにここは夢の中だよ」

「そうですか」

 冷めた少女に魔女の方が戸惑う。

「君は、もっと感情豊かな子ではなかったかな?」

 少女は物憂げな表情を浮かべ話し始めた。

「普段は、無理してるんです。これが本当の私なんです。ごめんなさい」

 謝る少女を魔女は無言で見つめ、やがて視線を虚空へと移す。

「そうだったか。私は、人間というものを勝手に分かったつもりになっていたが、それは勘違いだったようだね。子供も大人も、同じように生きているということか」

 魔女は隣に座った少女をチラリと盗み見た。少女は、無言で言葉の続きを待っている。大人びたその姿に、魔女は自分が犯したミスを突き付けられたような気分になった。

「まったく……君は本当に子供なのか怪しくなって来たな。こうなってしまっては代案を考えなくてはいけないね。だがその前に、やっておかなければいけないことができてしまったようだ」

 未だ口を挟もうとしない虚ろな少女を横目に、魔女は心の中で少女にすまないと告げた。

「レイリー、君はなぜ無理をしているんだい? 私に教えてくれないかい?」

 本来魔女にとって過去の記憶や心の内を知ることは容易いことだ。しかし、その力を今ここで行使しなかったのは、少女に対する敬意の現れであった。

 そして、少女はゆっくりと語り始める。内に秘めた思いを。


[つづく]

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