呪夜の真実[前編](2)
人間の感情に惹かれた魔女は、最も理解が早そうな[憎悪]というものを研究対象として、あらゆる人間に憎悪を抱かせてきた。その過程で、魔女は強い憎しみを人間が抱く為には条件があるということに気付く。
大切な存在を失くすことで、人間はその原因となった人物、物事に強い恨みを抱くのだ。
人間は、面白いもので命に対する考えや価値観が個体によってずれている。そこには生い立ちや人種的な問題、さらには個人的な好き嫌いといったことまで起因しているようで、言葉を濁さず言ってしまえば、死んでいい人と死んでは困る人という線引きがなされているのである。また、大切なはずの命を自ら絶つ者、他者の命を奪う者もいる。それが、魔女には理解できなかった。
そうした中で、戦争というものはとても興味深いものであった。
殺人が正当化される中、それを拒絶し最後まで引き金を引くことができず殺されていく者。命を搾取することに快楽を感じ、いくつもの非道を重ねる者。
平時は禁止されている非人道的な行為が、敵国に対しては称賛の対象となり、功績や武功へと姿を変える。そのことが、魔女にはひどく面白く感じた。
元々魔女はベクトルというものについて、特別な感情を持っていた。全ての事象に対して、方向というものは極めて重要なことだと考えており、魔女自身が普段から大切にしていることだった。
そうした中で、魔女は一つの疑問に行き着く。
憎悪の強さは、年齢と大きな関係があるように感じたのだ。成人したばかりの人間より、子供を育てているような父親や母親の方が遥かに強い憎悪を抱くのだ。それは人生経験や家族への愛情が起因しているようであった。
では、憎悪を知らない純粋無垢な子供は、憎悪という感情に出会ったとき、どんな表情で何を感じ何を願うのか。想像もできない自らの設問に、魔女は興奮する。
そして悪い笑みを浮かべるのだった。
[つづく]
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