死刑とその執行日時が確定しても、ミスト=トワールの軟禁状態が解除されることはなく、それどころかより厳重なものへと変わっていた。数日に一度許可されていた面会も、刑の執行までは許されないことが先ほど役人から説明された。その事実にミストは涙した。

 最後の面会まで来てくれていたのは両親だけだった。その両親との面会も、初回以降ミストは拒否していた。それは、父親から言われた言葉原因だった。


「ミスト、お前はやってないんだよな?」

 面会時間も残りわずかといったところで出てきたこの質問がミストの逆鱗に触れたのだ。それは、軟禁が続くことにより精神がすり減った少年には受け止めがたい言葉だった。心配する父の言葉は、少年には自分を疑っているのだとしか捉えることができなかった。この問いの直後、ミストは面会室を無言で立ち去った。

 あの日から、ミストは両親と顔も合わせていない。


 絶望に打ちひしがれていたミストの中に怒りと疑問が音もなく湧き上がっていく。

 なぜ自分がやってもいない殺人の罪を背負わなければいけなかったのか。いったい誰が何のために自分を陥れたのか。考えたところで答えは出ないということがわかっていても、無意識に思考が働いてしまう。それが後悔だということに気付いたのは、判決から三日目の晩だった。少年に残された時間はあと二日を切っていた。

 二日後の夕刻、自分が他人の罪を背負いこの世から去るのだとミストは本当の意味で理解した。それは、幼さの残る少年には不相応な覚悟だった。数多あまたの後悔と懺悔ざんげを抱いたまま、なにひとつ事を成せずにこの世を去るのだ。叶わなかった将来の展望など最早どうだってよかった。ミストの願いはひとつだ。ほんの少しの時間でも構わない。両親と、話がしたかった。


「父さん、母さん、ごめん。本当に……最後の最後まで……ごめんなさい……だけど、産んでくれて、愛してくれて、ありがとう……」

 想いが、涙と共に溢れ、静かに零れていく。届くことのない言葉を、伝えたかった感謝を、話したかったたくさんのことを、ミストは胸の内に大切に抱きしめた。


 こみ上げる嗚咽を堪えるには、ミストは幼すぎたのだ。



 涙の夜から二日後、ミスト=トワールの死刑が執行された。 


[つづく]

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