法の檻(2)

 この国では17歳までの少年少女を未成年と定義している。

 義務教育が15歳で修了するこの国では、その先2年で自分にとって必要であると思う進路に進み、成人としての自覚や実力をつける準備期間としていた。

 その未成年への死刑執行が初めて行われたその日、国中に大きな波紋が広がる。しかし、その波紋はすぐに終息に至る。

 箝口令かんこうれいが敷かれたのである。それは、王宮に仕えるある男による提案であった。


 男は、経歴を詐称さしょうし王宮に仕えており、この国の人間ではなかった。彼はこの国に強い憎しみを抱いている。それは、自国が敗戦国に成り下がる以前、この国と敵対していた時に負った深い傷によるものだった。


 それは戦争においては日常の光景と化していたが、まだ幼かった男にとって酷く耐えがたいものであった。大切なものをすべて奪われ、なすすべもなく泣き崩れる少年に向けられたのは刃ではなく嘲笑ちょうしょうであった。少年は兵士の気まぐれにより生かされたのだ。その際聞いた耳障りで不快な兵士たちの笑い声が今も男の脳裏にこびり付いている。その時受けた侮辱が、彼に執念という名の復讐の術を授けたのだ。

 そして彼は、確実にこの国を内側から壊し始めていた。そのひとつが先の法改正である。

 そのことに気付く人間は現れず、彼は今では国王の側近にまで上り詰めていた。そして自国から同じ憎しみを抱く同胞を招き入れ、国王の周りを自分の手中の人間で取り囲む準備を進めていた。ゆっくりと慎重に、時間をかけることで確実に包囲を進めていく。仲間を増やし邪魔なものを消す。単純な作業をミスなくこなした。しかし、優秀な人間を消すことは非常に難しく、計画は停滞していった。


 パスカルブランチという存在に対し、沸々と負の感情が煮えたぎり始めていた。そして男は、彼を側近から引きずり降ろさなければ計画の成功は成しえないと悟った。


 こうして、男にとって苦悩の日々が始まる。


 その一方で、魔女は事の成り行きを蚊帳の外に出て見守っていた。しかし魔女は、男に対して良い感情を抱いていなかった。


 他人におもちゃを取られた子供のように、魔女は男をねたんでいた。


[つづく]

 

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