法の檻(1)

 パスカルブランチ=トワールには一人息子がいた。その息子であるミスト=トワールはもうこの世界には存在していない。

 彼は、ある殺人事件の犯人に仕立て上げられ、宣告された死刑の執行によりこの世から消されたのだ。

 日頃の悪辣あくらつな態度と行動により、少年は死刑から逃れることを許されなかった。一度疑いが掛かってからは、彼の冤罪えんざいを主張する者は両親のみであった。

 人々を救い、守るための法律により彼の未来は無情にも摘み取られた。




 この国の法律は数十年前から少しずつ形を変えていった。

 それはある少女が引き起こした猟奇的りょうきてきな事件による影響である。事件発生から数百年の時を経て国はこの事件を公表したのだ。

 少女は一夜にして自分の村に住むすべての人間の命を奪ったのだ。その中にはもちろん彼女の両親もいた。そして少女はこの事件の最後にこう語ったと言われている。


『変化のない毎日が私を狂わせた。刺激を求めた私に、魔女は答えとそれを成すためのすべを与えてくれた。魔女は言っていた。私は子供だ。法律に守られた私は数年後には、監獄を出ることになる。その時私が何を思うのか、楽しみでならないと。私も、同じことを思った。命を摘み取る感覚は格別で、あの高揚感と後悔や懺悔といった感情とではどちらが私にとって大きなものなのかを確かめたい。それをこれから考えることはとても有意義なことに思える』

 後にこの事件は彼女の名前から[レイリーの呪夜じゅや]と呼ばれ、今もこの国に強い恐怖を刻み込んでいる。


 事件の公表を経て、この国の法律は変わり始めた。その中でも大きな変化がひとつある。


 場合により未成年にも死刑を執行することが可能になったということだ。


 施行後、しばらくの間はこの法律により裁かれた子供はいなかった。それが数年前から少しずつその件数を増やしていき現在では年に10人近い子供が死刑を宣告されている。


 ここでまたひとつ大きな問題が生じていた。未だ水面下から浮上することのない悪夢のような事実。それは、死刑により罪をつぐなったとされる子供の多くが、実際には無罪であったということ。そしてこの問題自体が国により隠蔽いんぺいされているということである。

 

[つづく]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る