第43話 魔法の開発

 爆風は自分に届かせず、しかし火力は下げない。それは爆発に指向性を持たせるということではないだろうか?

 簡単な解決法としては、爆風にこちらと反対側への指向性を持たせる。そうすれば、こちらに爆風は届かず、しかし火力は下がらない。

 だがそれは、この特訓の趣旨に反するのではないかと考えた。


「魔力が多ければ爆発範囲は広がる。爆風に指向性を持たせるのは、間違いじゃないんだ。一定の範囲に拡散後、向こう側への指向性ではなく内側へと向ければ、こちらには届かなくなる……はず?」

「ほう? 少しは考えているようだな」

「多少はね」


 問題はどうやってその指向性を持たせるか。解決の第一歩として、生み出した火球の一方の魔力を厚めに成型してみる。

 この火球ファイアボールの魔法、衝撃を受けた場合、その場で爆発する性質がある。

 それは爆発に値する炎を魔力で覆い、球状に加工して飛ばしているからだ。

 衝撃を受けると魔力の殻が破れ、内部の炎が爆発的に拡散していく。

 その外郭部分の魔力に意図的にムラを作ることで、爆発の方向を制御しようと考えたのだ。


「ぐぇ、これは難しい」

「魔法を成立させるまでなら普通の魔力制御のスキルで何とかなるが、特性を変化させようとするとそのスキルだけでは追い付かんだろう?」

「それが今回の特訓内容ってわけだ」

「分かったら、さっさと続けろ」


 エルヴィラは俺の推論に合格点を出しつつも、特訓の続行を指示する。

 彼女の言う通り、論理が理解できても実行できなければ意味がない。

 俺は慣れない魔力操作に目が眩む思いをしながらも、火球ファイアボールの魔法を放ち続けたのだった。




「ヒュー……ヒュー……」

「どうした、手が止まっているぞ」


 魔力が枯渇するということは、魔力を吸われて気絶していたグラントと同じ状態になるということだ。

 俺は自力で立つこともできず、雲の上にうつ伏せに倒れたまま、魔法を放ち続けていた。

 気絶しても、容赦なくエルヴィラに叩き起こされ、特訓を継続させられる。

 魔力が枯渇しきっても、衰弱するだけで死ぬわけじゃないのが、なおさら性質たちが悪い。


「もう、無理。ダメ……もう一発も、撃てないから……」

「そんな程度でお母様が満足するとでも思っているのか? 限界を超えて、なお最後の一発を放てるように、気合いで絞り切れ」

「らめぇ、本当に、むり……むり、だから……」

「やかましい、さっさと撃てと言ってる」


 ゲシッと俺の背中がエルヴィラに踏まれる。

 ミュトスはどちらかというとこちらが苦しむ様を見て悦ぶ性格だが、こいつは直接的にいじめて悦ぶ性格に違いない。

 そんな恨み言を脳内で浮かべつつ、俺は最後の一撃を放った。

 直後、完全に視界が闇に閉ざされ、意識が混沌へと沈んでいく。


「チッ、完全に落ちやがったか」


 舌打ちしつつ、俺の背を踏みにじるエルヴィラ。その感触が最後の感覚だった。




「次は障害物を避けて標的を破壊しろ。上から迂回するのは許さん」

「いや、障害物多過ぎて標的が見えないんだが?」

「魔術師なら、できないことは魔法で工夫しろ」

「了解、ド畜生め」

「何か言ったか!?」

「いいえ!」


 一面雲で覆われた世界で、鉄柱が周囲を囲んでいる。どうやらその向こうに的があるらしいのだが、俺からは見えない。

 とりあえず魔法は、対象を認識しないことには発動できないという弱点がある。

 的が見えなければ、火球を作れたとしても、飛ばすことができない。

 どうにかして的を認識する手段が必要になる。


「まずは標的の認識……視界をどうにか確保しないと」


 最初に考えたのは、上空に鏡のような物質を生成し、標的を見るという手法だった。

 しかしこれは、予想以上に難しい結果に終わった。

 まず、鏡のような物質を作ることが難しかった。

 次に、それを宙に浮かせたまま固定するのが難しかった。

 さらに、鏡に映った状態で、的までの経路に沿って火球を飛ばすのが難しかった。

 とどめは『敵がそれを放置してくれるとは限らん』と言って、エルヴィラに破壊された。


「うむ。ムカつくが、まったくもってその通りだ」

「なら別の手を考えるんだな」


 破壊され、キラキラと雨のように降り注ぐ魔力の残滓を見つめる。

 次は伝達魔法を使用し、視界を飛ばすという方法に挑戦してみた。

 しかしこれは、かけている最中にエルヴィラに足払いを喰らい、転倒して中断されてしまった。


「戦闘の最中に自分の視界を飛ばすということは、自分の視界が閉ざされるという意味でもある」

「それもそっか」


 他の場所を見るとは、自分の場所が見れないということに繋がる。

 それは戦闘中によそ見をすることに等しい。

 戦闘中以外なら使い道もあるだろうが、今回のような状況では使えない。


「なら……レーダー方式でやって見るか」


 音波を飛ばして周辺を探るというレーダー。それを魔力で代用して再現してみようと考えた。

 魔力を薄く延ばす感覚で周辺に飛ばし、障害物に当たったところで跳ね返って次はそれを迂回させる。

 それを繰り返し脳内で地図化マッピングすることで、地形を探索する。

 最初は時間がかかったが、それを手順スクリプト化することで一瞬で把握できるようになった。


「ほう? それはなかなか……有用な物を考えたな」

「故郷じゃ、普通に利用されてた道具だよ。それを真似ただけ」

「謙虚なのは良いことだ。あとは的を当てれるかどうかだな」

「くっ、なんだよ、この障害物の数は」

「味方が軍勢だった場合、これくらいの密度にはなるだろうさ」


 ここまでで、かなりの時間をエルヴィラと過ごしている。

 だからなのか、きつい特訓は変わらないが、口調は少し柔らかくなっているようだった。

 どうやら彼女、ミュトスが関わらない状況では、かなり世話好きな性格をしているのかもしれない。


 そんな事を考えながら、俺は火球ファイアボールの魔法を飛ばし続ける。

 中には火の球が通り過ぎるのにギリギリの隙間などもあり、さらに火球ファイアボールを圧縮するという手段まで考案した。

 結果、俺の火球ファイアボールは通常ソフトボールサイズの大きさのところを、パチンコ玉くらいまで圧縮することに成功している。


 そうしてようやく命中させたが、今度は速度に苦情を突きつけられ、さらに速度アップに励んだ。

 結果、どれほどの時間、魔法を放ち続けたか分からないほど撃ち続け、魔力枯渇で何度も失神し、ようやく合格を得たのだった。

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