第35話 死闘(14)
空中に回避したグリードガルドへの追撃。
『刻呪』を込めた氷の結晶を飛ばしてグリードガルドの周囲を囲んだ。
氷の結晶の数は全部で六個。
6個準備したのには理由がある。
上下左右前後から攻撃をするためだ。
全方位から攻撃を受けた場合、回避も防御も困難だ。
俺は氷の腕を振って合図をする。
「『停止』解除」
『停止』が解除された氷の結晶から最大威力の『激槍』が放たれた。
「ッ………!!!!!」
グリードガルドは回避不能の攻撃であることを悟り、水の盾を全方位に張って防御を固めた。
『刻呪』を用いて遠隔で防御をするのは先程俺がやったようにさほど難しいことではないが、攻撃となると難しい。
常に発動していれば役割を果たせる防御とは異なり、攻撃はタイミングも重要だからだ。
『刻呪』によって込められた魔法は通常魔力が尽きるまで連続で発動される。
攻撃の魔法を『刻呪』で込めると常時発動されることになるため、狙ったタイミングで発動することはできない。
そこを改善しないと相手が予想していない魔法を『刻呪』で発動して攻撃することはできない。
ヒントになったのはエルレイの突撃槍だ。
エルレイの突撃槍はエルレイに意思に反応して『激槍』を発動しているようだった。
『刻呪』単体ではそういう便利なことはできない。
そこで俺は『刻呪』を刻んだ段階ですぐに『停止』の魔法を発動することで、『刻呪』によって魔法が発動される前の状態で止めておくことにした。
先程のグリードガルドへの攻撃は『刻呪』にかけられていた『停止』を解除することによって発動されたものだ。
魔族との戦闘では魔法をどれだけうまく組み合わせて使えるかで勝敗が決まる。
『刻呪』の遅延発動はうまくいき、グリードガルドは空中に釘付けにされた。
俺の最大威力で放った『激槍』を耐えるのは予想の範囲内だが、流石と言わざるを得ない。
「貫けぇ……ッ!!!」
俺の合図にしっかり合わせてきたエルレイは、後方に撃てるだけの『激槍』を放って加速していた。
全力の突撃槍によって『刻呪』を込めた氷の結晶ごとグリードガルドを貫く。
大きな爆発音が響いた。
胴体の中央を貫かれたグリードガルドは宙を舞い、地面の上に叩きつけられた。
地面に着地し、肩で息をするエルレイ。
俺は動かなくなったグリードガルドを見た。
グリードガルドの下半身はエルレイの全力全開の攻撃によってちぎれて何処かへ飛んで行ってしまっていた。
「あれではもう無理でしょう……」
勝てた、という実感は無かった。
グリードガルドが強すぎたためまだ何か隠しているのではないかとも思うが、近づいて確認するしかないだろう。
「俺が見てきます。エルレイさんは離れていてください」
「……わかった」
俺が近づくと、グリードガルドは口から溢れた血を吐き出した。
まだ生きている。
だが戦闘ができる状態ではない。
「つよい……な……」
グリードガルドは荒い呼吸をしながら、俺を見て言った。
口の端から血が流れていた。
「こちらは二人がかりだったからな。一人だったら負けていただろう」
大丈夫そうだとわかって、俺たちに近づいてきたエルレイがグリードガルドに告げた。
七聖たるエルレイにここまで言わせる魔族はグリードガルドしかいないだろう。
事実、エルレイ一人では倒されていた可能性は高い。
「これまで戦ったどの魔族よりも強かった。魔王よりも……人間と魔族、敵対する者同士ではあるが、武を極めた者としてその強さを後世に語り継ごう」
「武を極めた者……どこまで極めても結局は届かなかった……申し訳ございません……陛下……」
グリードガルドは目を閉じた。
いつの間にか頭上の雲が割れて、差し込んだ日差しがグリードガルドの亡骸を照らした。
「レイン、お前の『炎浄』で焼いてくれ」
「わかりました」
魔族の死体は『炎浄』の魔法で焼く決まりだ。
幾人もの魔族を屠ってきたのにエルレイは『炎浄』が使えないわけだが、これまでどうしていたのだろう?
「一切使える人間が見つからなかったら魔族の死体を聖地まで運んでもらって焼いていたな。だいたいは近くの村とか街に魔法使いがいたら代わりに焼いてもらっていた」
燃え盛る白色の炎を見つめながらエルレイはそう話した。
「そういえばなんでグリードガルドはアイルゴニストまでやってきたんでしょうか?」
「アイルゴニストに……? 確かにグリードガルドはあれだけの強さを持ちながら俺と正面から戦おうとしなかった。アイルゴニストを目指して逃げていたとなると納得できるな。アイルゴニストには何かあるんだ? 心当たりは?」
「ないですね。最近グリードガルド以外の魔族が目撃されたという話も聞いてないです」
逆に言えばここ最近はぱったりと魔族出現の情報が入っていないため逆に不気味だ。
「今の時点では何も分からないが気をつけておいた方がいいだろう。グリードガルドほどの魔族が無意味な行動を取るとは思えない」
エルレイの言う通りだった。
意味はあるはずだが、わざわざこのアイルゴニストまでハーフレイルを突っ切ってやってくる理由は俺には分からなかった。
グリードガルドを焼く炎は小さくなってほとんど燃え尽きようとしている。
何が目的だったんだろうか?
炎が完全に消え、後には僅かな遺灰だけが残った。
「……っ」
安心して気が緩んでしまったのだろう。
視界が激しく揺れ、気がつくと俺は地面に倒れ伏していた。
「レイン!?大丈夫か!」
エルレイは俺に駆け寄ってくる。
俺の体は自分で想像している以上に大きなダメージを受けていたらしい。
「限界が来たようです……ここから西へ行ったところに軍勢を集めることになっていました。そこにエーデルロンドという部下がいるのでそこまで運んでもらえますか?」
俺の言葉にエルレイが頷くのが見えた。
それを最後に俺の意識は完全に闇に落ちていった。
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