第26話 死闘(5)

 七聖の一人、エルレイ。

 彼は槍使いで”魔槍”と呼ばれていた。

 背丈よりも長く大きな突撃槍を肩に担いでいたのを思い出す。

 その槍は全体が透き通るような純白で柄の一部には金色の模様があしらわれており、思わず見惚れてしまうほど美しかった。

 彼はその巨大な槍を軽々と振り回すとルクリウスは話していた。


 エルレイはルクリウスと同じ七聖ということもあって、俺は幾度か顔を合わせたことがあった。

 ほっそりとして爽やかな好青年で、若くして七聖の地位にあるというのにそれを鼻にかけるようなところがなかった。

 七聖ともなると一般人とは違うのだろう。

 俗っぽさがない超越者としての雰囲気を漂わせているところは七聖全員に共通するところだ。


 七聖とは聖地ガークレシアにおける最高意思決定機関「七聖会議」の構成員に与えられる称号である。

 しかし、その地位は形式的なものに過ぎず、実質的な聖地の管理は教団の幹部達に任されている。


 七聖の役目は人類の力の象徴になることである。


 七聖には常に勇者の中で最も力を持った者が任命される。

 魔族を1人で狩れる者は勇者と呼ばれるが、化け物揃いの勇者であっても魔族を3人以上倒したものはほとんどいない。

 魔族を相手にして勝ち続けるというのはそれほど難しい。

 魔族との戦いで死なずに済んだとしても、深手を追って引退することになるケースは多い。


 噂では魔族を五人狩ることができたら、七聖に任命される可能性があるらしい。

 もちろん聖地のトップということもあり、素行に問題がないことなど他にも条件があると聞く。

 七聖に任命されることは名誉なことではあるが、資格を持った勇者であっても断る者が多い。

 教団のバックアップをただの勇者以上に受けられるようになるとはいえ、面倒なしがらみに縛られると身動きが取りづらくなると考えるからだ。

 魔王を倒す前、俺も七聖に誘われたことがあったが、メリットがなかったので断ったことがあった。

 七聖になったところでやることは魔族と戦うことに変わりはないので余計なことに神経を使いたくないと思ったからだ。


 そんな七聖だが、今は三人しかおらず、残り四つは空席となっている。


 四つも空席になっているのには理由がある。

 浮遊火山の戦いで七聖の大半は魔王とその側近によって討たれたからだ。


 魔王が絶滅魔法『疫病』を発動した浮遊火山の戦いは、非常に激しいものだったと語られている。

 何日にも渡って魔族と人間の攻防が繰り広げられ、倒された魔族は二十人以上だった。

 人間側の被害も甚大で七聖四人が命を落とし、かろうじて生き残った一人もそのとき受けた傷が原因で引退することになった。


 そして、浮遊火山の戦いの後に空席を埋める形で任命されたのがエルレイだ。

 任命された段階でエルレイはすでに十人以上の魔族を狩っていたと聞く。

 浮遊火山の戦いのときは七聖の席がすべて埋まっていたから任命されなかっただけで、当時から七聖並の強さを誇っていて有名だったらしい。

 七聖に任命されてからは、聖地から一切出ないリュクセイオンと各地を放浪するばかりで魔族とは戦わないルクリウスの代わりにひたすら魔族と戦い続けていたようだ。




 俺が初めてエルレイと会ったのは、エルレイが傷の手当てを聖地で受けていたときだった。

 ルクリウスと一緒にいた俺を見かけて彼から声をかけてきたのだ。

 滅多に弟子を取らないことで有名なルクリウスの新しい弟子ということで興味を持ったのだろう。

 彼は全身包帯だらけで杖をついているくせにぺらぺら陽気に喋っていたので、七聖ともなるとこれほどの重傷でも関係ないのだなと関心したものだった。

 俺と話しているときに教団の職員が呼びに来て、完全に回復していないのに再度出陣させられていたのは働かせすぎでは、と思ったのを覚えている。

 一緒にエルレイの出陣を見送ったルクリウスにお前は戦いに行かないのか、と尋ねたら、わしは最終兵器だから人類が滅ぶ寸前まで力を温存するのが仕事、なんて言って笑っていた。


 そんな冗談を言えたのはルクリウスがエルレイを信用していたからだろう。

 実際、エルレイは今日まで魔族に討たれることはなく戦い続けているので相当な強さであることは間違いない。

 勇者の中でトップの経験と実力を持っていると言っても過言ではないだろう。

 ハーフレイルの女王がエルレイに魔族討伐を任せて兵を引いたのも頷ける話だ。


 しかし、魔族を追っていた勇者がエルレイと分かった瞬間、俺は自分の見通しの甘さを思い知らされて愕然とした。


「エルレイを手こずらせるほどの魔族がアイルゴニストに入ってきているのか?」





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