第15話 準備(7)

 山を切ってハイリーンまで運んできたが、ここからが正念場だ。


 昨日の王城のイメージ通りに山を切らないといけない。

 ただ、切る前に準備が必要だった。


 わずかに生えていた木などを切って一箇所にまとめておく。

 これらは後で木材として活用されたり、薪として使われる予定だ。


 また、王城を作るときに岩がひび割れて崩れてしまうようなことがないように、魔法によって一つの岩として形を保てるようにする必要がある。

 しかし、俺はそれに適した魔法を知らなかった。


「エリーテ。岩が割れないようにする魔法ってどんなのがあるか知っているか?」


「回光石なら早々割れないと思うけど、割れやすい岩を加工するときは『保存』をかけてもらうこともあるよ~」


「ああ、なるほど……」


 完全に盲点だった。

『保存』は食べ物が腐らないようにしたり、美術品が経年劣化で傷まないように保護するために使われる魔法だ。

 その本質は現状から意図しない変化が生じるのを防ぐところにある。

 エリーテの話によれば、『保存』をかけることによって岩が割れないように保護しながら加工をすることができるということらしい。

 同じ魔法であってもその使い方は様々なので、習得している魔法であっても自分が全然知らない効果があったり、想像もしないような使われ方をしていることがよくある。

 魔法の奥深さには驚嘆するばかりだ。


 山全体に『保存』をかけて保護をする。

 アイテルン山岳地帯と違って人里が近い場所なので『隔絶』で空間を隔てて人が入って来られないようにしてから作業を開始した。



『切山』



 自分で開発した複合魔法でイメージ通りに岩を加工していく。

 ミニチュアのときに比べると遥かに時間がかかったが、なんとか設計図通りのものを完成させることができていた。


 完成したものを眺めてみると本当に自分で作ったのかと思うほど素晴らしい出来だった。

 新しい複合魔法『切山』でなければ設計図通りに作ることはできなかっただろう。


 回光石が使われているため、上から下まで真っ白に輝いている。

 新王都ハイリーンに象徴として相応しい建築物となったはずだ。


「レイン様~お城に名前はつけないの?」


「ハイリーン城でいいんじゃないか?」


 ここはシンプルにハイリーン城とした。

 奇をてらった名前を付けたところでわかりにくくなるだけだからだ。


「それでエリーテ。切り出した回光石はどうする?」


 城の内部は空洞のため、切り出された回光石は膨大な量が山積みになっている。


「城壁と堀を作っても結構余りそうだね~。余ったのは道に敷き詰めて石畳にしよ~。回光石は硬いから普通の石を敷くよりも長持ちするはず~」


 城壁を作るために、ハイリーン城の周囲に回光石を積み上げる。

 石の山に対して『圧縮』の魔法をかけて、そのまま城壁を成型していく。

 城壁の形ができたら、『切山』で門をくり抜く。


 疲れ切っているが、堀も作らないといけない。

 城壁の外側から少し距離をとって『激槍』で土を掘って堀を作った。

 ただ『激槍』は強い攻撃魔法ではあるのだが細かいコントロールが難しいため、途中からは『切山』で地面を切ることにした。

 岩よりも遥かに柔らかい土は切った感触すらなくて怖いぐらいだったが。

 掘った土は『浮遊』で浮かべて一箇所にまとめておく。

 後で畑に持っていったりなど使いみちは色々あるはずだ。


 とりあえず、堀の底面と壁面に回光石を積んで水平になるように『圧縮』で形を整えていく。

 城壁で慣れていたから、堀の方はどんどん効率よく滑らかな平面にすることができるようになっていた。

 それでも回光石が余っていたので、残りを使って王城前や主要な道を石畳にした。


 こうしてハイリーン城が完成したのだった。

 作業が終わったころにはすっかり夕方になっていた。

 それでも今朝までは何もなかった更地に、たった1日で城を建ててしまったのだから知らない人が見たら幻か何かだと思うだろう。


「魔力はまだ残っているが集中力が限界だ……」


 俺は一日中細かい作業をしていたせいで頭が痛くなってしまった。


「おつかれさま~。まさかほんとに一日でお城ができるなんて思わなかったよ~」


 エリーテがリュックの中から水とお菓子を取り出して俺に渡してくれる。

 空飛ぶ山に乗ってハイリーンに帰ってくる途中に昼飯は食べたが、今の俺はすっかり空腹だった。


「こんな白亜のお城に住めるなんてすごいです……! 王都のアイルネスト城は立派ですがだいぶ古いので、こんな新しいお城に住めるなんてまるで夢のようです……!」


 リーリアはハイリーン城を見ながら目を輝かせていた。

 女性なら家と馬車は新しいものを欲す、みたいな諺があったような気がするが、リーリアもそういうタイプなのだろうか。

 王都の城はたしかに歴史を感じさせる重厚さがあるが、住んでる当人からすると古いだけなのかもしれない。


「今はただの石の箱だからな。内装とか家具みたいな細かい部分はエリーテに任せる」


「いいんだけど色々問題は出てくると思うよ~。でも一応解決策は考えておく~」


 エリーテがなんだか不吉なことを言っていたが、疲れているのでその日は王都に戻って身体を休めることにした。



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