第14話 準備(6)
翌日、俺とリーリアは再びエリーテの家を訪ねていた。
「おはよ~。準備できてるよ~」
エリーテは身長よりも大きなリュックサックを背負っている。
引っ越しの荷物が入っているのだろうが、小柄なエリーテよりもリュックの方が遥かに大きい。
見かけによらず力持ちなようだ。
「城を作る岩はどんなのがいいんだ?」
「ふっふっふ~。実はガルイード家の秘密の山があるんだけど、そこに連れて行ってくれる?」
目当ての場所は王都から南に行ったところにあるアイテルン山岳地帯の中にあるという。
「いいだろう」
距離はそれほど離れていないし、そんなに急いでいるわけでもないのでゆっくり空の旅をするとしよう。
『飛行』で一時間ほど飛ぶと山脈が見えてきた。
この中の山のどれかに目当ての場所があるはずだがどれも同じに見える。
「エリーテ、どこらへんだ?」
「一番高いあの山~」
エリーテが指した先にひとつだけ白っぽくてやや高い山がある。
「あれか」
俺たちは『飛行』で近づいていく。
他の山が黒っぽいゴツゴツした山肌なのに対して、その山だけ色が白く輝いているように見えた。
「この山か?」
「そう~。この山は回光石っていうとにかく固い石でできてるんだよ~。鉄の道具じゃ全然削れないんだ~。でも~昨日レイン様がミニ王城を作った岩も回光石だったんだけど、あれだけ自由に加工できるなら山ごと切るとかできるでしょ?」
エリーテは俺が回光石を魔法で加工できたからここに連れてきたという。
「しかし、いいのか? 文字通り山ごと持って行くことになるが」
「いいよ~回光石って貴重っていうわけでもないから。ただ加工が難しいからあんまり使われないんだよね~。すごく綺麗なんだけど」
「そういう事情ならいいか。一応防御魔法を張ってから切るぞ」
『剛壁』を発動して万が一削った岩のかけらなどが飛んできても怪我しないように準備をする。
念の為魔力で周辺に人影がないか探るが、周辺には誰もいないようだ。
『空断』の魔法を発動する。
しかし、飛ばさず手元に留めておく。
「昨日みたいにぶつけて切らないの~?」
エリーテが疑問に思ったのか尋ねてくる。
「あれでもいいんだが、何発も撃たないといけなくなるからな。『空断』の魔法は風の刃をぶつけて物体を切断する魔法なんだが、切断していくうちにエネルギーを奪われてやがて消えてしまう。そうならないように魔法自体を強化してから撃ちたい」
続けていくつか魔法を発動する。
『複製』
『回転』
『加速』
『空断』によって発生した白っぽい風の刃。
これを『複製』で五つに増やす。
『複製』の魔法をかけることで『空断』五発分にできるが、魔力消費は『空断』三発分以下で済むからお得だ。
そして『回転』によって五つの風の刃を回転させつつ、『加速』によってそのスピードを速くして威力を高める。
風切り音が凄まじい。
山を切るために編み出した魔法なので、人間に向かって放てばひとたまりもないだろう。
これまで似たような魔法があるという話は聞いたことがなかった。
他のやつがやっていても、せいぜい『空断』に『加速』をかけるぐらいだろう。
俺が開発したオリジナル複合魔法なので『切山』とでも名付けよう。
「行け……『切山』」
風の回転刃を山に向かって放つ。
山肌にぶつかったと思うとそのまま中に吸い込まれていく。
包丁でパンを切るのと同じくらいあっさりと岩が切れるため、魔法を編み出した自分が恐ろしくなる。
「すごい威力ですね……昨日の魔法よりもあっさりと岩が切れてしまうなんて……」
「回光石はトップクラスに硬いのにほんとすごいね~」
「さすがに、この魔法は威力が高すぎるな……人には教えないようにしよう……」
他に固いものを加工する魔法として使えそうなのは水源を探すために使った『激槍』などがあるが、ここまでの威力はない。
城攻めをする機会があったら城壁を切り崩すのにも使えそうだ。
そんなことするなら『飛行』を使って空から城内に『破滅』を撃ち込んだり、『豪炎』で火を放ったほうが早いような気がするけど。
考えごとをしながら魔法を操っていると数分で山を完全に切り離すことに成功した。
ここまで思い通りに行くとは我ながら恐ろしい。
引きこもり生活では新しい魔法のアイデアが浮かんでも、大規模なものは試すことができなかった。
今は思いついたまま試していなかった魔法行使を実践で試せるから楽しい。
切り離した山に追加で魔法をかける。
『隠蔽』
『浮遊』
『飛行』
このまま山をハイリーンまで運んでもいいが、山が空を飛んでいるのを見られたら面倒なことになるため『隠蔽』で見えないように隠す。
「せっかくだから山に乗って帰るか」
俺たちにかかっていた『飛行』を解いて、山の頂上に降り立つ。
本来の山頂よりも遥かに高い場所から眺める景色は素晴らしかった。
「古代魔法文明では空中に都市を浮かべる技術があったと聞きましたが、レイン様ほどの魔法使いならばできそうですね……」
「やろうと思えばできるだろうが魔力が無駄だな……ずっと維持するのも大変だし」
「でも、空中に浮かぶ街ができたらロマンあるね~いつか作ってみたい~」
「空中都市の良いところがあるとすれば雲の上なら天気の影響を無視できたり、他国からの侵略を受けにくかったりするところか」
最近は悪天候続きだが食料不足は解決したし、俺がいるアイルゴニストに攻め入ろうなどという馬鹿は人間にはいないだろう。
そうなると都市を空中に浮かべるメリットは景観がいいというだけになってしまう。
魔法使いに頼らず、永続的に『浮遊』を発動できる方法が見つからない限り空中都市の実現は難しいだろう。
俺たちはのんびり雑談をしながら空を飛ぶ山に乗ってハイリーンまで帰るのだった。
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