第11話 準備(3)
「これほどの食料を一体どうやって……」
収穫した食料を補佐役のエーデルロンドに見せると困惑していた。
不眠不休で頑張った甲斐があるというものだ。
「まあこれは全体の半分なんだけどな。残りの半分はハーフレイルに届けてきた」
ハーフレイルでも相当驚かれた。
数年分の備蓄ができる倉庫が一瞬で満杯になってしまったのだ。
向こうからしてみれば、こんなに早く大量の食料を用意できるなんて思っていなかっただろう。
「まさか魔法で作ったのですか?」
「やったことないが魔力だけで作り出すほうが難しいだろうな……俺がやったのは『加速』だ」
「収穫までを『加速』で……!?まさか……そんなことが……」
「できる確証はなかったがなんとかやれたよ。これで食料問題は解決だな」
「こんなことができるのは陛下くらいですよ……私には到底できません。一時的に発動できたとしても、種まきから収穫までなんて魔力が保つはずがありません。せいぜい一日早めるくらいでしょう」
王国主席魔法使いであるエーデルロンドに無理なら、少なくともアイルゴニストの魔法使いには無理だろう。
「……つまり、食料という強い武器を我がアイルゴニストは持ったわけだ」
「ええ……食料支援と引き換えに同盟を結ぶことや交易で優位に立つことが可能です」
……まあ、あまりやりすぎるのも良くないだろう。
決してしんどいから二度とやりたくない、などと考えているわけではない。
こうして食料の問題が解決したので、ようやくハイリーンを新しい王都にする作業に取り掛かることができる。
すでに使用人たちはハイリーンへ向かって出発していた。
大きな荷物などは俺が直接運ぶという約束をしたので王城の一区画に家財が山積みだ。
しかし、運ぶ先にはまだなにもなく、農地が広がっているだけなので早くその準備をしなくてはならない。
「材料がないことにはなにもできないよな……」
ハイリーン平原には建築に使えそうなものがない。
元々低木しか生えておらず、家などを建てるのには使えない。
俺が生まれた家やソフィーの家は裏山から切り出してきた木で作られた家だった。
あの温かみがあって落ち着く家が好きだった。
引きこもっていた山に建てた家もほとんど同じ作りだった。
しかし、リクリエト村のような小さな村の住民の家ならともかく、王のための城である。
それなりのものじゃないと、舐められるだろう。
「エーデルロンド……王都にいる建築の専門家で使えそうなやついるか?」
「新王都の建築関係に噛ませてくれという陳情はたくさん来ていますが……」
「その中で一番仕事が早くて優秀なのは?」
「ガルイードのところですかね」
エーデルロンドによれば、ガルイード家は古くから王室関係の建築を多く引き受けてきた由緒ある家柄だという。
「うーん……まあ仕方ないか」
王室御用達というのは気に食わない。
しかし、新しい王城を設計してもらうからには、そういう方面に慣れているほうがいいだろう。
「この王城を設計したのもかつてのガルイード家の当主と聞いておりますし……ガルイード家に設計を依頼するのであれば、リーリア様も連れて行かれたらよろしいと思います」
「……なんであいつを……?」
「そんなに嫌な顔をしなくても……」
顔に出ていただろうか。
俺もまだまだ修行が足りていないようだ。
「今のガルイード家の当主とリーリア様は大変仲がよろしいので。リーリア様がいたほうが話は通りやすいでしょう」
「……」
エーデルロンドの言っていることは正しい。
王位を継承した俺ではあるがその実態は簒奪に近い。
民からよく思われていなくても当然だ。
それなら面識のある王女様を連れて行ったほうが話がスムーズに進みそうだ。
「……私から話してきましょうか?」
「……いや、自分で話す」
王女様の部屋がどこにあるのか知らなかったので、エーデルロンドに場所を聞いて向かう。
王城に来たことなど数えることしかないため、なんだか慣れない。
それらしき部屋の前に着いたので、ドアをノックすると俺より少し年上ぐらいのメイドが出た。
「陛下……リーリア様になにかご用事でしょうか?」
「王女様に頼みたいことがあってな……王女様はいるか?」
「レイン様ですか?シアン通して」
中から王女様の声がして、メイドはドアを開けて部屋に入れてくれる。
部屋の中はほとんど空っぽだった。
王女様もハイリーンに引っ越すことになるのでその準備をしているようだった。
「レイン様。私に何か?」
「王女様がガルイード家の当主と懇意だと聞いてな。これからガルイード家に行くんだが一緒に行かないか誘いに来たんだが、忙しいか?」
べつに俺一人で行ってもいいのだから無理やり連れて行く必要はない。
この王女様とどう関わったらいいのかわからなくて困っているというのが正直なところだった。
「いえ行きます。引っ越しの準備はほとんど終わっていますし……」
「そうか、なら謁見の間で待っているから支度ができたら来てくれ」
「はい……あと、レイン様」
「ん?」
「私のことはリーリアとお呼びください。私はあなたのものなのですから」
「……わかった」
リーリアはにっこり微笑んでいた。
その笑顔を見た俺はなぜだか悲しくなり、顔を背ける。
「それじゃ」
俺はリーリアに別れを告げて謁見の間に戻った。
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