最終話

今日でさいごだ。

本当はもっと遠くまで行きたかったけど。

予定ならもう病院を抜け出して約束の場所に来ているはずだが。

「ごめん!遅くなった。」

「おう。行こう。」

俺たちは1時間ほど電車に乗り、蒼の病院がある町の3つ隣の町まで行った。

「わぁ。ここ、海ある!久しぶりに見た。きれー。」

「だろ、だから来たんだよ。」

「海行きたいけどさ、俺、めっちゃお腹すいた。」

「言うと思った。何個か調べてるから、どこ行くか決めようぜ。」

「うん!」

久しぶりにこんなに笑ってる顔見たな。

それからご飯食べて、景色見たり、散歩したり、色々充実していた。



夕方になって俺たちは海辺を歩いていた。

「もう夕方だね。」

蒼が言った。

「そうだな。」

「夕陽、すげー綺麗。海も綺麗。」

「あぁ。間違えても入ったりすんなよ。」

蒼がこっちを見て笑う。あ、こいつはそういうやつだ。

「おいおい、もう11月だぞ、靴、脱いでんじゃねぇよ。あっ、ちょっ、おい!」

蒼は海に向かって走って行ってしまった。

俺は追いかけた。

気がつくともう腰ぐらいまで水に浸かっていた。

「お前!何してんだよ。」

「新なら来てくれるって思ってたよ。」

笑いながら蒼は言う。

「どう言う意味だよ?」

「そのままの意味だよ。」

蒼はこっちを見つめる。やけに水が冷たく感じる、ら

「今更怖いって思ってる?」

「なんの話だよ。」

「お前、俺のこと、殺そうと思ってただろ?」 

言葉が出ない。

「新、俺のこと大好きだもんね、俺がいないとダメだろ?だから俺死ぬんだったらせめてこの手でって考えてたんだろ。分かるよそれぐらい。でもさ、俺も新のこと好きだよ。愛してる。殺したいぐらい。」

「え...」

「海って言われて気付いたよ。」

喉が詰まる。

「俺さ、正直、お前以外どうでもいいよ。自分のことだって。後3ヶ月だろうって言われた時、まず、お前のこと考えたよ。だからさ、新と一緒じゃなきゃダメなんだよ。俺も。」

「ちょっ...待って...!」

いつのまにか、海の冷たさなんて忘れていた。周りには俺たち以外誰もいない。夕陽も沈みかけている。周りの音は何も聞こえなくて、心臓の音がうるさい。



「ね、一緒に行こっか。」

蒼が言った。笑っていた。綺麗だった。

もう、いっか、新がいたら。苦しさなんて一瞬だ。

「うん。行こう。」

そうして俺たちはお互いの腰に手を回し、離れないように力一杯抱きしめあって沈んでいった。

暗い海の中に沈んでいく。でもそこに不安はなくて、寒いはずなのに、冷たいはずなのに、何故か暖かかった。



これが恋なのかな。






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消えた後に知った僕の恋は。 まめだいふく @sakikurumi1128

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