第5話 ナショナルブルー3F ラーメン屋「最高醤」富士見君と犬飼君


カチッ


「ふ〜。犬飼君入って何日目だっけ?痩せたね」


「今2週間経ちましたね。4kg程痩せましたね」


「そうだよね。うちのバイト続けられそう?」


「はい!大変ですが、自分もラーメン屋開きたいので、最高醤の味も好きなので食らい付いてやります」


「燃えてるね〜、まだ若いもんなぁ、夢があっていい」


カチッ


「ふ〜。富士見さんは、醤でどれくらい働いているんですか?」


「俺は5年位かな」


「それまでは何してたんですか?」


「ふ〜。なにも」


「なにも…ですか?」


「20代の頃は漫画書いててさ、アシスタントとかやったりしてたんだけど、結局何も出来ないまま30歳超えて、ふと冷静になった時には、あ、人生終わったなってなって、何も出来なくなった」


「……はい。それで?」


「こんな話聞いて面白いか?」


「滅多に聞けない話じゃないですか」


「…そこから3年位、色んな仕事してみちゃ違うってなって、気付けば33歳。もう本当に終わったなって思って、毎日安い酒飲んで過ごしてた」


「…ふ〜…」


「んで、34歳になった頃位に、母ちゃんも死んで、なんか俺も生きる気失くしちゃってさ」


「…はい」


「金はなかったけど、母ちゃんが家だけは残してくれて。もらう資格が俺にあるとは思えなかったけど、遺言で俺に託すってあってさ」


「…いいお母さんですね」


「俺の人生最高のファインプレーは、母ちゃんの息子に生まれた事。母ちゃん最大の失敗は、俺を産んだ事だと思っているよ」


「…そんな…」


「そんで、そっからなんとか生活は出来たんだけど、気力もなくただ毎日が過ぎていくだけみたいな抜け殻の状態が36歳まで続いたんだよね」


「…はい」


「犬飼君、醤の本店どこか解る?」


「横浜の方ですよね?家系に闘いを挑んだって話好きです」


「その本店がたまたま家の近くでさ、最後に好きなラーメン食っておきたくて行ったんだよね」


「最後って…?」


「細々と繋いでた金も残り千円だけになっててさ、最後の食事にしようと思って。なんでその店選んだのかは未だに解らないけど」


「…はい」


「食券買って、ラーメンが来て、食ってみたら味がもう解んないのよ。ボロボロ泣けてきてさ」


「…はい」


「昼の終わり間際で客も少なかったんだけど、流石に顔隠してたら、その時ラーメン作ってくれた店長、今の社長が"お口に合いませんか"って聞いてきたのよ」


「社長丁寧ですね」


「うん。最後に話す人になるかなと思って、今までの話全部したのよ」


「はい」


「そしたら社長も泣き出してさ、こう言ったのよ」


『最後のラーメンが味が解らないなんて駄目だ。明日また食べに来てください』


「いや、金がないって言ったら、死ぬのにそんな事気にしてどうするんですか?だと」


「はははっ。社長凄いじゃないですか」


「そんで、本当に翌日行って、ラーメン食ったら美味くてさ。また違う意味でボロボロ泣けてきてさ。店長は要らないって言ったけど、せめてラーメンの代金分だけでも皿洗いでものんでもしますって言って…気付いたら、5年経ってた」


「…社長に…救われたんですね…」


「そう…だね。つまんない話なのに長くてごめんね」


「…つまらないとか…言わないで下さい…戻りましょう!ラーメン作りましょう」


「そうだね。行こうか」


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