第3話 ナショナルブルー25F BAR「BLUE」 大谷さんと田中君

「大谷さん、僕この仕事やっていける気がしないです」


「早くない?まだ配属されて3日よ?」


「さっきモヒートとモスコミュール間違えました」


「なかなかないミスね。でもミスのない人なんていないんだから、いちいち気にしなくてもそのうち出来るようになるわよ」


「…働くって大変ですね」


「そうね〜、なんでこんな思いしながら生きなきゃいけないのかたまに私も解らないわ」


カチッ


カチッ


「ふ〜。大谷さんは、なんでこの仕事されるようになったんですか?」


「ふ〜。私?私は英語話せる仕事探してて、BARは結構外国の方も来るからかな」


「よく対応されてますよね、留学とかされてたんですか?」


「大学卒業してからしばらくカナダに行ってたかな。田中君はなんでバーテンダーに?」


「僕は…就職活動で30社落ちて。とにかく仕事と思って。31社目ので今の会社に受かったんで、選んでるというよりはすがりつく感じで」


「そうなんだ…まだ若いんだし、焦らずバイトとかして考えてても良かったんじゃない?」


「うち、母子家庭なんですよ。それで、今年高校に行く妹もいて。俺と違って頭良いんで、大学の学費位出してやりたくて」


「…凄いじゃない。おばさんは軽く泣くのを堪えてしまったよ」


「おばさんって、大谷さんまだ若いじゃないですか?」


「35歳よ」


「え!!そんな!!??嘘!?3歳位しか変わらないと思ってました!干支が1周分違うんですか?え?だって可愛いじゃないですか?モー娘の後藤真希みたいだし」


「とりあえず落ち着いて、ははっ。ありがとう、後藤真希35歳だけどね」


「じゃあ、もうこの仕事されて長いんですか?」


「ううん。まだ3年目かな」


「それまでは何を?」


ジュ


カチッ


「ふ〜。会社で事務やったり、パチンコ屋で働いてみたりキャバクラで働いたり。結婚したり離婚したり。安定とはほど遠い人生かな」


「…すいません、なんか聞かない方が良かったですか?」


「はっはっは。まあ、女に過去の話をさせるのは気を付けた方がいいかな。バーテンダーは聞き上手が得よ」


「すいません」


「いいのいいの。人はすれ違うものよ。そういえば、田中君はお付き合いされてる人とかいるの?」


「いたんですが、フラれました」


「あら。またどうして?」


「就活落ちまくって、将来が不安だと言われました」


「…大変な時にそう言われてフラれたの?」


「はい。理由もそう言ってましたね」


「…まあ、いいんじゃない。そんな女忘れちゃっても。今気になる人とかはいないの?」


「最近は全くです。この3日間は仕事忙しくて帰っても寝てただけだし」


「あそこで電話しようとしてるお姉さん2人ならどっちがタイプ」


「…電話してる方は…あれ?なんか落ち込み始めましたね。電話してない方の方が好みですね。紙タバコの方の」


「なるほど、ちょっと仕事出来る感じの綺麗目な女性がいい好きなのね」


「はい。大谷さんの好みは…って聞かない方がいいですか?」


「…聞いたら養ってくれる?」


「え?いや、え?いえ僕は、えっと。あのそのあのその…」


「はっはっは!うんうん。嘘嘘。冗談が過ぎたね。そのまま頑張りたまえ若いの!仕事戻ろうか」


「はい!」

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