Step5-2

「去年のさ、芸術の選択科目、一緒の班だったじゃん?」 


 上本くんに言われて気が付く。

 そう言えば、書道の授業、一緒だったわね。忘れていたなんて言えない。


「そうだったわね」


「初めは、ただの興味だったんだ。静かに半紙に向かって、サラサラと美しい文字を紡ぐ……とても上品で、遠い昔の人みたいだって思ってた」


 そう言って、宙をうっとりと眺める。

 一体、彼の目に私はどう映っているのだろう。知りたいけど、怖い。自分とかけ離れた人物像なんじゃないかって。


「私はそんな高尚こうしょうな存在じゃないわ」


「周りから見たら、そう見えるんだよ。でも、僕にとって、そのイメージはきっかけに過ぎなかったんだ」


***


 覚えてるかな?

 駅で話しかけた時のこと。


 電車を降りた君の背中を見つけて、驚いたんだ。同じ駅ってことは、家も近いのかなって。


 だから、気がついたら声をかけていた。

 その時、君は少し、肩を震わせたね。

 そんな些細な仕草さえも、僕にとっては、大きな魅力だったんだ。


 それからだよ。

 僕が自分の気持ちに気がついたのは。

 ふと、気がつけば、君のことを目で追って、話したい、近づきたいって思ったんだ。


 休み時間に一人で本を読む凛とした君の姿。

 僕も中学まではずっと休み時間は本を読んでいたんだ。でも、高校に上がった時にイメチェンしたくてさ、教室で本を読むのを止めたんだ。他人の目を気にしてね……。

 だから、教室で周りの音を気にせずに読んでいる姿が素敵だなって、カッコいいなって、尊敬してる。

 

 でも、そんな君も親しい友達と話すときは柔らかな表情で、他愛もないことに笑って僕と一緒なとこもあるんだなって、勝手に安心してた。


 調理実習の時、同じ班になれたのは、本当にラッキーだった。

 良いとこ、見せたいと思ってた。

 でも、君の瞳に僕は入っていなくて、君の目には調理器具と食材しか入ってなくて、少し心が痛んだ。

 こんなに近くにいるのに……。

 僕は調理器具や食材に負けてるのかってね。


 でも、そんな姿でさえ、美しいと思ったんだよ。

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