Step5

 学園祭後。

 空っぽの教室には、私と上本くんしかいない。他のクラスメートは皆、学校近くの打ち上げ会場へ向かったそうだ。

 私も、その波に乗ろうとしたのだが、上本くんにひき止められたのだ。話があると言って。


「見て、月だ!」


 上本くんが空を指差す。

 上本くんの指を辿ると、青い空に白っぽい月が浮かんでいる。

 青空にも月は浮かぶもの。

 昼間は目には見えないだけで、ちゃんとそこにある。


「月が綺麗ね」


「僕は……『死んでもいいよ』」


 目を見開いて、上本くんを見る。

 頬を赤く染めながら、はにかんでいた。


「いっ、意味、分かって言っているの?」


「うん。これ告白だよ?」


 鏡を見なくても分かる。

 私の頬が桃色に染まっていることが。

 こんな告白はズルい。

 だって、その言葉は私が学園祭号で書いた小説のラストと同じ。


「改めて言うよ」


 上本くんが私の目を見つめている。


「川中美月さん、好きです」


 「隙ありっ!」のスキか?

 それとも、すきって言う、農具のこと?

 百面相をしている私に上本くんはふわりと笑いかける。


「告白、かわさないでね。Loveってことだからね」


「そっ……そんなっ。……私なんか、どこがいいのか分からないわ」


「芯があって、部活に一生懸命で、真面目で、常に人のことを考えていて……」


「ちょっ、ちょっとストップッ!」


 真っ直ぐな上本くんの言葉は私の心に響いて、とても嬉しく感じる。

 しかし、その反面、恥ずかしく感じる。

 そして、心に広がる不安と疑問。

 どうして私? 私は騙されているの?


「理由が知りたい? 話すよ。でも、大した理由じゃないからね」


 物語みたいな明確な理由なんて無いんだ。きっと。

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