Step4

 学園祭の準備期間が始まった。


 我が高校は学園祭前の一週間を準備期間にしている。その期間は、午前中はダンス練習、午後はクラスの準備になる。

 クラスの準備は、教室展示、劇、模擬店などの準備で、まだ楽だ。

 しかし、ダンス練習というのは、3年生に見張られる中、練習しなければならず、本当に息が詰まる。



「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ」


「右、左、前前、後ろ!」


 跳んだり、回ったり、動きを覚えて、体を動かすのは大変だ。数式を覚えて使う方がずっと楽だと思う。

 インプットとアウトプットを同時に行うダンスは難易度が高い。盆踊りでいいじゃないかと毎年思う。



「ペアダン、合わせてみるから、ペアの人の隣に並んでー!」


 ペアダンを男子と合わせて踊る時になった。

 私の団はペアで手を繋いだところから、曲が始まる。

 かなり恥ずかしい。

 手が汗ばんでいるし、変な匂いしてないかなって、不安になる。

 定位置に行くと、もう既に上本くんがいた。自分より、頭1つ分高い背丈に少しドキリとする。そっと、隣に並んだ。

 私に気付いた上本くんが手を差し出す。なんだか、くすぐったい気分だが、自分の手をそこに重ねた。

 上本くんの大きい手が、私の手を優しく包み込む。


 チラッと隣の上本くんを盗み見た。

 明後日あさっての方を向いている。

 耳たぶと頬が少し赤い。

 まさか、熱中症? 大丈夫かな。

 そんなことを考えているうちに曲が始まった。右へ左へ……右往左往する。

 曲が終わりに近づくにつれて、勢いが高まり、最後の一音が奏でられた。


「みんな、お疲れ様! 5分休憩して、もう一回通して踊ろう」


 団長さんは爽やかな笑顔を浮かべて、指示を出した。あれだけ踊った後に、笑える余裕があるなんて……化け物だ。

 私は教室の端により、壁にもたれ掛かるようにしゃがみこんだ。

 うへぇ~、もう動けない……、明日は筋肉痛確定だな。


「お疲れ様! 大丈夫?」


 声に顔を上げると、隣に上本くんがいた。

 上本くんは私の隣に座り込み、水筒のお茶をゴクリと飲んだ。

 額に光る、汗がまぶしい。

 私もつられて、水分をとる。

 体がうるおいを欲していたようで、一口だけと思っていたのにも関わらず、ゴクゴクと一気にお茶を飲み干してしまった。


「いい飲みっぷりだね。ところでさ、文芸部は文化祭で何か、展示とかするの?」


「まぁ、一応ね。部だからね」


「何を展示するの?」


「部誌とイラストと短歌よ」


 昨年もそうだったが、あまり文芸部の展示に人は来ない。

 だから、人気の無い教室にイラストの描かれたボードが並べられ、その中央に部誌が置いてあると言うなんともホラーじみた状況になるのだ。

 短歌は黒板に貼っている。


「見に行くよ! 川中さんの小説、読みたいし」


「えぇ~。来てくれるのは嬉しいけど、絶対にペンネーム教えないわよ」


「小説を読んで、川中さんのペンネーム当ててみせるよ! 当たったら、言ってね。嘘はダメだからね」


 上本くんは自信一杯に笑っているが、多分、当たらない。

 なぜって、私の書く小説は児童書っぽい……詰まり、子どもっぽいから。

 上本くんが思っている私は、恐らく、真面目で大人しいイメージ。

 でも、本当の私は子どもっぽくて、幼くて、どうしようもない馬鹿。

 そんな一面は、親友の小野夕と家族にしか見せない。

 馬鹿にされるのが嫌だから。

 しかし、小説という物は自分の内面を映す鏡であるため、自分をいつわれない。


「僕もさ、2日目に体育館で発表するし、良かったら見に来て!」


「上本くんが歌うの?」


「う~ん……それは、当日見に来てのお楽しみということで!」


 上本くんはイタズラっぽい笑みを浮かべた。

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