Step3-2

 日曜日、夕は約束通り、私の家に来てくれた。夕の母が作ったお菓子を持って。


「来てくれてありがとう。先に部屋に上がってて」


 何度か、夕を自宅に招いたことがあるため、この家の間取りは分かっているだろう。

 夕は「ラジャー」と、おどけて敬礼し、トントンと2階にある、私の部屋に向かっていった。

 夕の足音を後ろに聞きつつ、キッチンへ向かう。

 夕の手土産を開けると、パウンドケーキが入っていた。

 美味しそうなそれを皿に盛り付ける。

 2つのガラスコップに氷を入れて、ペットボトルのアイスティーを注ぎ、お盆に載せる。ストローも付けた。一応、お客さんだからね。

 紅茶が溢れないように、そおっと2階への階段を上った。

 部屋に着くと、夕は窓の外を眺めていた。


「お待たせ。何を見てたの?」


「うーん、鳥とか風景とか」


「田んぼしか無いでしょ」


「のどかでいいじゃん」


 私が半畳ほどのブルーのテーブルにお茶菓子と紅茶を並べていると、夕が向かいに座った。

 そして、2人で顔を見合わせて、手を合わせた。食事前の挨拶をするのは私と夕の共通の癖だ。


「「いただきまーす!」」


 フォークを手に取り、パウンドケーキを口にする。

 うぅ~ん! 美味しいっ!

 口の中でバターの香りがふわっと漂う。

 やはり、夕の母のお菓子は絶品ね。


「上本くんの件だけどさ……」


「うん……」


 夕の声に、急いでケーキを飲み込んだ。

 その事、まだ気にしてくれていたんだ。

 心がほっこりと暖かくなる。


「上本くんと、何かエピソードとかないの?」


「う~ん。私も考えてたけど、調理実習の時、同じ班だったことぐらいしか……」


「そっかー……。降りる駅とかは? 一緒じゃない?」


「……あっ! それだっ!」


「あるの?」


 私は夕の言葉に深く頷き、約1年前の話を始めた。

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