Step2
日直の日は、嫌いだ。
移動教室の度に教室に鍵をかけなければならないし、学級日誌を書くのもめんどくさい。
だから、日直の日は少し憂鬱。
放課後。
自分以外の誰もいない教室で黒板を掃除する。いつもは隅にいる私が今だけは教室の主であるかのように錯覚する。
窓から外を見ると、運動場で陸上部が練習をしている。100m走だろうか。
2つある黒板消しをクリーナーで掃除し、片方はクリーナーの上に放置した。そして、もう片方を手に取り、再び黒板を消す。
6限目が数学の授業だった。そして、数学の担任は筆圧が濃いから、何度も消さないとチョークの文字が消えない。
文字を消す身になって書いてくれよ。
「お疲れ様!」
肩をビクリと震わせた。
教室に現れたのは例の上本くん。
太陽みたいな笑顔を浮かべている。
「ど、どうしたの?」
「うーん、まぁ、ちょっとね……」
上本くんはお茶を濁して、クリーナーの上の黒板消しを手に取った。
隣に立つ上本くんを見上げる。
上本くんの肩の辺りに私の頭がくる。こんなに背が高かったんだ、と少しびっくりした。
昨年同じクラスだったと言っても、顔をまじまじと見る関係ではなかった。そのため、真正面から見ると新鮮で魅力が分かる。
柔らかい物腰で、長いが不潔には見えない前髪は斜めに流している。
「えっ? わ、私が日直だから……。一人で大丈夫だよ」
「2人でやった方が、すぐに終わるからさ。川中さんは日誌、書いたら? 僕は黒板を消すし……」
確か、上本くんはテニス部だ。
ラケットを持って、テニスコートに向かう所を見たことがある。
今の時間は部活中だろうに、どうしてここへ来て、しかも私を手伝ってくれるのだろう?
「話したいこともあるし……早く終わらそー」
いつまでも黒板消しを握りしめている私に上本くんは、言葉を続けた。
『話したいこと』
一体、なんだろう。
まさか、「ペアダン、無かったことにしてくれ」……とか?
やー。怖い。話なんて聞きたくないなー。
でも、手伝ってくれるのに、いつまでも私が日誌を書き終わらないのは申し訳ないから、一旦、ネガティブな思考を停止させて日誌に向かった。
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