波紋

西川笑里

夏の終わりに

もう頭にきた!

海辺の防波堤の上で私は白いサンダルを脱いだ。


「君のために買ったものだ」とか言ってくれちゃって、その気になったバカ丸出しの私。

あの女が受け取らなかっただけじゃん。

このサンダル、あいつのお下がりじゃん。

私、何喜んじゃってんのよ。


くそっ! こんなもん履くくらいなら、裸足で帰った方がマシよ。

電車だって裸足で乗ってやる!


こんなもん、海へ投げ捨てて全部終わりだ。ゴミ捨ててごめん!


私は思いっきり手にしたサンダルを海に向かって投げ捨てた。


——バシャッ


それは不思議な光景だった。

サンダルが落ちた水面が青色の強い虹となって、丸い波紋が夕闇の海に広がってゆく。

まるで異世界の入り口みたい。


もう片方も投げてみる。

また不思議な丸い波紋が広がる。

足元の小石を拾う。そして投げる。

何度でも不思議な波紋が現れては消えてゆく。


「わあ、ウミホタルだ」

近くを歩いていた親子の声。


そっか。ウミホタルっていうんだ。


もう怒りが収まっている。

そして、私は裸足の自分に後悔しながら終電に乗って家へ帰った。


ある夏の終わり。

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