第41話 俺たちは死んでもいい
「いやいやこんなにご馳走になれるなんて!」
「いやそれグレイオーガからだし。俺たちも喰えるなんて思いもしなかったからご馳走になってるのはこっちだよ」
夜になり、焚火をしながら夕食に勤しむ。
彼女がグレイオーガの肉にガブリと噛みつき、千切る。ドワーフは初めて見たがこんなにワイルドな者たちばかりなのだろうか?。
ただ焼いただけであり、調味料もほとんど使っていない。その辺の毒がない匂いのする草を巻いただけだ。その程度でもグレイオーガの肉からは汁が零れて草に染みこみ、それなりに美味しくなっていた。
「ダイダク、本当に大丈夫なのか?」
「グレイオーガの単独討伐ができるような人材だぞ?。敵対すれば全滅したのは目に見えてる。それこそ最悪の結末だったろうが…あの様子じゃあな」
「…確かに」
リガードたちのところへルミナを連れて行ったのは危険な行為だったかもしれない。それは否定できない事実だ。もしドワーフを拉致したなどとなれば五大種族からの報復は免れない。
だがこんな場所で単独で戦っているというのは五大種族の社会からすれば遠すぎる。迫害でも受けていたのだと考えるのが妥当だろう。
「彼女…ルミナって名前らしいけど、ドワーフらしくてドワーフらしくないね。…ハーフなのかな」
「ファイネ?。…何で分かるの?」
「エルフとドワーフは仲がいいからね。…ドワーフとエルフのハーフは歓迎されるなんて言われるくらいに」
遠い目をするファイネ。そこには渦巻くような感情の視線があった。
ファイネは人間とエルフのハーフだ。そして今の言葉からすれば、思うところがない訳がないのだろう。
「ドワーフとエルフのハーフか。見たことがない種族だな」
「私も知らない。そもそもドワーフ自体見たことないし」
「二人も知らないのか。…まぁドワーフ自体が亜人迫害はそんなにないって言われるくらいだしな」
亜人迫害がとんでもなくひどいのはエルフ、次いでフェアリー、その後にジャイアントがくるけどジャイアントは亜人でも強ければ関係ないって話らしい。
そして最後にドワーフだけど、基本的に後ろで武器とかを供与しているって話だ。迫害に協力こそすれど表には出ない。だから亜人でも見たことがある者はほとんどいないし、迫害もあんまりないのでは?とすら言われる。
「聞くか」
「…頼む」
リガードは頭を下げた。いや他の二人もだ。
分かっているさ。彼女を連れてきたのは俺が中心だったのだから。
一人離れてグレイオーガの肉を貪るルミナに近づく。一つの覚悟を持った上で。
「んんん…その辺の草でもこんなに美味くなるかぁ。ちょっと知識が欲しいな…って何?」
「ルミナ、あんたの種族を教えてくれ」
「…」
一瞬で険しい顔になるルミナ。俺たちが誰だか分かっていれば当然の反応だろう。
「俺たちはあんたがドワーフじゃないかと思っている。もしそれで俺たちが殺されるならそうしてくれ」
「へぇ?」
ルミナは意外という顔になった。それは驚きを隠す気がないのか、はたまた別のことを考えているのか分からない。
「亜人だからな。殺される覚悟はあるさ」
「違う、と言ったら?」
「さてな。態度も何も変わらないだろうよ」
ルミナは空を見上げ、数瞬だけ考えたあとそれを口にした。
「そうだね。言ってもいいかな。答えは…ドワーフじゃない」
「…そうか」
ホッと一息をつく。最悪の場合である五大種族が襲ってくる可能性、そしてその可能性で町を滅ぼさせないために逃げて死ぬ覚悟はあった。それがほぼ無くなっただけでひどく安心した。
ルミナはさらに言葉を続けた。
「だがハーフかと言われると答えられない」
険しい顔は変わらない。まるでそちらの方が大事かのように言葉も重く感じる。
だがその発言…もしかして身分的には高い者たちなのだろうか?。もしくは裏稼業とかの言えない過去を持っている、とったところだろう。
「複雑な事情ってやつか。結局五大種族はどこも上は同じか」
「うん…まぁ…そうだね」
ルミナの険しい顔が一転してなんとも言いづらそうな顔になった。まぁ過去を詮索するのは基本的にしない方がいいのはどこも同じだ。俺にだってそんなものはある。
「分かった、ありがとう。ところで俺たちを襲う気はあるのか?。ドワーフを見たことがなくてな。どういうやつらなのか全然知らないんだ」
「あるわけないでしょう。これでも一飯の恩はあるんだから。ドワーフを見たことがないのは…まぁその、当たり前と言えば当たり前というか…」
「当たり前?」
ドワーフを知らない俺からすればその考え方すら分からない。見ることもあまりないなんてフェアリーみたいな生態してるな。基本的に見つからないって…。
「他の国に住むってドワーフはいないから。自国が一番快適で、離れたくないって種族だから」
「なるほどなぁ。じゃあルミナはあぶれ者か変わり者だな?」
「んー…変わり者とは言われたかな」
帰巣意識が非常に高い種族であり、ルミナはそれを捨てているようなものだと。おそらくそういうことなのだろう。なら確かに亜人には含まれる種族とも言える。
「ダイダク、って言ったっけ。なかなかに胆力あるね」
「何のことだ?」
ニヤニヤとしたルミナにそう言われ、スッと答える。きっと死ぬ覚悟をしていたことだろう。俺はそれを覚悟させられた相手に話すような馬鹿じゃない。
察してきたのは予想外ではあったが。
「ドワーフって基本的にキミら四人を相手取って全滅させられるくらいの強さを持ってるんだ。あたしはその中でもそれなりに強い方」
「…本当か?」
「エルフの…ファイネに聞いてみれば分かるはず。そのあたし相手に半ば敵意すら持って話しかけるなんて、胆力がないと無理なことだよ」
「覚悟はしていたさ」
ドワーフの戦力は予想以上に高いものだったらしい。少なくともジャイアントと同等か、下手すればそれ以上とすら見ていいかもしれない。
「ところでこっちも話がある。…どこへ向かってた?」
「教えたくはないが…そう言うということは後ろから追ってくるつもりがあるってことだろう。先に教えてくれ、目的は?」
「久々に言葉が聞きたかったから」
……何言ってんだこいつ?
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