第40話 遭遇したのはドワーフ?
「なぁ、今回はドレの町の方に行くんだよな」
獣人と呼ばれる種族、その中でも虎の獣人であるダイダクはパーティを組む3人に確認をとった。パーティメンバーはハーフエルフのファイネ、羽根が千切れたフェアリーのリガード、そして人間と獣人のハーフの猫の獣人エシータ。皆国を追われてこの町に辿り着いたものたちだ。
全員が人間の国で言うところの冒険者、要するに何でも屋のことだが、亜人の国でのそれに該当する。亜人の国では面倒屋などとも呼ばれていた。
町の外は危険だらけだ。魔物に災害に…五大種族。どれもこれもバケモノぞろいであり、亜人である俺たちにはこの町に来る以前は逃げる以外の選択肢はなかった。だがこの町に辿り着き、亜人という集まりで鍛えられた。そして面倒屋になり一年、今回の依頼は一つ先の町への護衛だった。
「ああ。危険はないはずだが、何かの拍子に魔物やらが現れてもおかしくない。警戒だけは怠るな」
俺よりも数年面倒屋をやっているリガードは注意を促す。何度依頼が成功しようと失敗するときは失敗する、それが分かっているからだろう。
半年前から面倒屋としてパーティを組んでいる四人だ。頷くだけで意思疎通は十分だ。
護衛中で何かが起きたら何ができるのか。実はそれほど多くはない。
いくら鍛えられたと言っても災害に遭えば荷物を投げ捨てて依頼人を連れて逃げる他ないし、魔物に襲われたなら撃退が最優先だ。魔物と言えど極限の空腹状態でもない限り討伐は行わない。目的は護衛だからだ。
「幸い魔物は周囲にはそんなにいないみたいだよ」
「匂いからしてもそんな感じ」
「ファイネ、エシータ、助かる。…リガード、災害は?」
「地下は眠っているものだけだな。地上にはいない。そして空はこちらから手を出すな。それだけだな」
「じゃあそこら辺にいる道の邪魔になりそうな魔物だけだな。追い払ってくるか」
ファイネは魔術による魔力の探知、エシータは五感の嗅覚、リガードは魔力そのものを視ることができる。周囲を知れる技術は武器にも生きる術にもなる。先制して攻撃することもできれば察知して逃げることもできる。
この役割分担こそがパーティを組むメリットだ。戦闘能力が低くてもそこさえきっちりできていれば関係ない。
そして三人は情報収集がメインなら、俺は戦闘がメインだ。三人も戦闘はできるが基本は魔術であり前に出る役割は持たないことが多い。
片手を拳に、もう片方の手を開いたままに合わせ、バシッとした音と共に気合を入れる。
戦う合図と言わんばかりにダイダクがにやりと笑いを浮かべた瞬間、ファイネが声を上げた。
「!?。これは……ダイダク。少し先の道に魔物がいるわ。ただ…」
「ただ…何だ?」
「戦ってる者がいるわ。見た目は…ドワーフ?。今なら優勢のようだし加勢する価値は」
「行くに決まってんだろ!。リガードとエシータは守っといてくれ!」
「えっ!?。ちょっとダイダク!?」
ファイネを肩に担いで走り出す。流石に俺一人だと逃げる時を考えると難しい。援護が必要だ。
「危険なら引けよ!」
「こちらは危険は見当たらないので大丈夫ですよ~」
のんきな二人の声を置き去りにファイネの悲鳴と一緒に駆け出す。だがその悲鳴はすぐに収まることになる。
予想以上に戦場が近かったからだ。100歩は走ったがもう100歩は走ってない。そして草むらに隠れて目にしたものは魔物としては戦いたくない部類の魔物と―ドワーフのような女性の姿。
魔物は「戦いは非推奨」とされる魔物、グレイオーガと呼ばれる魔物だ。エルフや人間が3人分ほどの大きさにそれに準じた戦闘力。魔術も肉体強度の強化を行うらしく、面倒屋で上位のパーティでさえ全滅したことさえあるという。
だが俺の目はそれほどの魔物と対等どころか優勢に戦っているドワーフの女性に釘付けになっていた。瞬きする一瞬でグレイオーガに一撃を加え、腕がへし折られた。
「ファイネ、ドワーフってのはあんなにつえぇのが普通なのか?」
「普通のドワーフは一人で私たち二人分はあるってくらいだけど…。あのドワーフは特別強いんじゃない?。一撃でグレイオーガの腕へし折るなんてできないと思う」
加勢をするべきかと思ったが、ドワーフの女性が笑っていることや戦闘力が高いために俺たちが入り込んだらあの大きな槌の射程範囲からして逆効果だと判断する。
「gruaaaaa!!」
「ハハッ!。これで終わり!。ゼル!」
槌に魔力が流れて行くのが分かる。武器に魔力を流して威力を高めるのは面倒屋の戦闘能力が高い者たちの必須技能だからだ。テンションが高まればそれもやりやすいとは聞いている。
予想は的中し、さっき一撃で腕をへし折った一撃が今度はグレイオーガの身体に命中する。と同時にグレイオーガは肉塊と化した。
「「は!?」」
へし折れるほどの威力よりもさらに強い強化だから吹き飛ばすくらいの威力強化だと思っていたら……予想以上に強い強化だったようだ。こんな威力はこれまで遭遇してきた戦いでも見たことがない。
それこそこれまでに見たことのある五大種族でさえいなかった。
「あれ、話しかけるべきか?」
「こそこそしてるよりかは話した方がいいんじゃないかしら?。あんな技術持ってるってことは」
ファイネが言葉を続けようとした瞬間、聞いたことのない声が遮った。
「そこの二人」
声の方向に顔を向けるとさっきのドワーフの女性がこちらを見て近づいてきていた。いつの間にか大槌すらどこかへ消え去っている。
「「はいぃ!」」
思わず立ち上がる。戦えば負けるのが分かっている上、目をつけられており逃げられないのだ。従順になる他なかった。
だがダイダクたちのそんな懸念は無駄なものだった。
「……ご飯はないかしら?」
「「…は?」」
ドワーフの女性、のお腹からグゥゥゥという音が鳴り、そのまま彼女はパタリと倒れ込んだ。
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