第39話 見つけた町は亜人の町

「いやあり得ないでしょう。ここは町なんてできるほどの場所ではないはず」


目を何度かこすって見間違いではないことを確認する。視界から消えない以上、本物らしい。

だが疲れによる幻覚のようなものである可能性は否定できない。何せここは辺境だ、町が実際にあると言われても病気か何かと間違えたと考えた方が正しい。


「周囲を調べましょうか。開拓されたといっても他の町への街道があるはずだし、今のあたしの速度なら多分一日かからずに一周できるはず」


ルミナはそう口にして行動を決める。ここは五大種族の国から離れすぎている。そもそもここに町を作る意味はあるのか?ということもある。怪し過ぎるモノには近づかないのがこの世界で生きる鉄則だ。

もっともルミナ自身の知識が古い可能性も否定できない。もしかしたらどこかの国が資源でも求めて町を簡易的に作ったと言われても納得できるものはある。


「町は上から見れば基本的には円状から少し変化させるような形のはず。となると見える範囲の町の両端とあとは少し移動したところからの同じものを角度を変えて見れば」


町から見てあたしが今どこにいるのかを確認する。街道が見えないあたり、門が作られない場所にいるのは間違いない。そしてハウタイルの森やバウル平野は大陸でも南端にかなり近い方だ。

そこから推測すると―


「―南南西。でも南向きの街道がないあたりからすると…五大種族か、亜人あたりの社会範囲の南端の町、といったところかしら」


考えられるのはそれだろう。亜人である可能性が一番高い。

亜人とは五大種族ではない生命体であり、社会を形成する者たちのことだ。獣人や木人、ハーフエルフ等の純粋な五大種族ではない者たちも亜人に含まれる。

彼らは人間以外の五大種族が非常に嫌う。迫害してきたと言ってもいい。それ故に彼らは五大種族から隠れた場所に彼らだけのコミュニティを作り上げているということが多かった。

五大種族に見つかって全滅するコミュニティもあり、生き延びていること自体がその隠密性を保証しているとすら言われていた。


「亜人か……。…眼を使えば分かるかな」


亜人はその特性が見た目に反映されることが多い。例えば獣人であれば毛皮のような皮膚を有していたり、木人であれば足が木になっていたり、魚人であれば鱗を有していたり、ハーフであれば耳が長いことや身体が大きいことが如実に反映される。


要するに見れば分かるのだ。それならいちいち危険を冒す必要はない。眼に魔力を操作すれば透視すら可能なのだ、それで確認するのが一番だろう。

魔力を操作し、透視するように操作を行う。足や腕に比べれば操作は非常に簡単…だが透視となると操作はそれなりに難しい。

とはいえ足に魔力操作するのとそこまで難易度は変わらない。それなら十分に可能だった。


「よっ……。……やっぱり亜人だったか」


町の中を見てみると亜人だらけだった。獣人に魚人、ハーフエルフまではいると思っていたがハーフフェアリーまでいた。予想以上にデカい規模の亜人の町のようだ。

しかしここまで大きいとなると困る。今のあたしはドワーフにしか見えないのだ。姿を見せれば当然敵対してくるだろう。こんなに数がいると数に圧殺されて死ぬのはこちらの方だ。


「方法としては…関わらないが一番いい。町に入るなら変装、もしくは成り代わりは必須ね」


仮に町に入るとするならかなり面倒なところだ。

まだ精密なレベルの魔力操作は全然できていない。変装するために獣の耳を生やすといったものは困難なのだ。

が、もう一つの方法である町から出てきた者を拉致し、成り代わるというのも止めた方がいいだろう。


「あそこ…ハーフドワーフはいない」


透視から見た町の風景にドワーフらしき者は存在していなかった。当たり前と言えば当たり前だが。

ドワーフは大きく二つの行動指針を持つ。一つは魔術具や武器道具の技術を高め、より良いモノを作成したいというもの。そしてもう一つはそのためなら旅をしようが構わないということだ。

だが技術の頂点がドワーフであり続ければ国内で全てが完結する。そのためドワーフの国では旅をお行う者と技術を高める者という二つに分かれ、世界の技術を確認し、それよりも確実に上であり続けることで頂点であり続けている。


言い換えると、ドワーフは基本的にドワーフの国に帰っている。それが最もドワーフらしい選択だから。

その結果、閉鎖ではないが閉鎖的な種族であると認識されている。当然、国外で子を作ることなど滅多にないことだ。世界に一人いるかどうかといったレベルだろう。


「変装…服を変えれば大丈夫?。肌色でバレるかな。んー…どうしよ?」


ドワーフの特徴は肌が人間よりもあざ黒いことと、身長が低めであること。あとは体毛が…魔力が少ないものほど多いことだ。それらを隠せればいい。

が、その特徴をあげてからルミナは気づいた。


「あれ。…言うほどバレない?」


ルミナの色は通常のドワーフよりもあざ黒い。下手すればドワーフにさえ見えないほどに。

身長は通常のドワーフより高めだ。が、人間の平均に届かない程度だろう。気にする者は少ないはず。

ルミナの魔力量は通常のドワーフどころではない。体毛なぞ綺麗にしている人間並みかそれ以下だ。

それらを統合すると、ルミナはそもそもドワーフには見えない、という結論に至る。


「と、とりあえず周囲の探索をしようか」


ルミナは額に冷や汗を流しつつ町の外周を移動し始める。強化は足と目だけ、移動を速く正確に行う。

腕の魔力操作技術の上達はガイカルドと戦った時程度にはできたのだからいったん置いておく。そこまでできれば今は十分だ。

何もせずに入っても多分バレないよな、という疑問を振り払うかのように全力で走った。





周囲の探索は一時間もせずに終わった。町が小さいのではなく、ルミナが全力で走ったのが速過ぎた。

街道は北西と北東に一部あり、そこから伸びていた。北東や北西に町があったような記憶はないことから、おそらくこれもこの町と同じようなことなのだろう。


他にも同じような町があり、そこにつながっていると考えれば妥当だ。そこから察するにこの町…いや、町群は―


「―亜人たちの最果てのコミュニティ、といったところかしら」


ここまでの遠い場所にコミュニティを作るものは五大種族に存在しない。言い換えると五大種族から逃げるならここまで遠い場所まで逃げようとすればいい。それだけで五大種族は遠すぎるからと見逃す可能性が非常に高いからだ。

ならばこれだけの町を作るのもあり得る。建設の技能なんぞ誰かが持ってれば共有するだろう。


あたしはドワーフではあるけれどこのコミュニティを壊したいかと問われるとどうでもいいと答えるからスルーしてもいいのだけれど…。


「…誰とも話さずに旅し続けてたからたまには言葉が聞きたい、かな」


言語が通じないことはない。言葉が通じないのは伝達する外気の魔力に齟齬が生じるからだ。自身の言葉を外気魔力を通じて相手に伝えるが、外気魔力を相手が理解できないことが言葉が通じない原因だ。

そんなものはとっくの昔に魔術で解決している。言葉が通じないなら友好関係になりたいかどうかすら分からないのだから優先的に研究した。


とはいえ今もそれが通じるか、と言われると分からない訳で。


「町の中に入るのは決定。問題はどうやって入るか」


ドワーフに見えないとはいえ人間ではなくハーフドワーフを言い張ることになるはずだ。そうなると住人に拒否反応があるかどうかを見ておきたい。


「狙いは町の外に出た人たち。魔物から逃げてるフリをして近づくとしましょうか」


となればまずは襲わせる魔物を探してきましょうか。

ルミナは視力を強化して周囲を見渡す。まだ魔力感知ができていないため、五感を鋭くすることで周囲の魔力を探る。そしておおよその方向を決めて走り出した。

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